大胆予測
キャリートレードの巻き戻しでUSD/JPYが100を下回り、日本に次なる資産バブルが到来
チャル・チャナナ
チーフ・インベストメント・ストラテジスト
グローバルマクロ戦略責任者
イランで戦争が勃発したことで、市場の関心は原油および天然ガス価格の急騰という、見通しを曇らせる最も重要な短期的リスク要因に集中しています。本四半期見通しの執筆時点である3月中旬現在、市場はこのリスクの深刻さに対して「過小反応」しており、原油・ガスの供給が比較的早期かつ完全に再開されることを前提に価格形成がなされています。その見方が正しいことを、私たちは皆、願うべきでしょう。本レポートでは、イラン戦争がもたらす直近のリスクから派生する2つのシナリオを検討すると同時に、この戦争が米中間の継続的な覇権争いの一章であるという視点、そして今後注視すべきポイントについて考察します。
本レポートは、米国およびイスラエルによるイラン攻撃によって、世界で最も重要な化石燃料輸出の動脈であるホルムズ海峡経由の輸出フローが遮断され、1970年代以来最も深刻な世界的原油供給の混乱が生じているさなかに執筆されています。3月17日時点の推計では、通常日量約2,000万バレルに達する原油輸出のうち、最大でも約半分しか供給されていないと見られています。これはホルムズ海峡自体、あるいは代替ルートを含めた数字です。ブルームバーグの著名なエネルギー業界アナリストであるハビエル・ブラス氏も指摘しているように、その大半は原油であり、近年湾岸諸国からの供給が増えていた主要な精製油製品が世界的に深刻に不足する事態となっています。
そして問題は原油だけにとどまりません。カタールは2月末の戦争勃発と同時に液化天然ガス(LNG)の生産を全面停止し、世界のLNG輸出量の約20%が失われました。さらにカタールは天然ガスそのものだけでなく、ガス処理の下流工程で生産される硫黄や各種肥料も主要な輸出品としています。これらはいずれも世界輸出の3分の1以上を占める重要カテゴリーです。当局によれば、LNG供給の再開には「数週間から数か月」を要する可能性があり、すでに南北両半球の今後の作付けシーズンを前に、肥料の供給量およびコストに対する懸念が高まっています。硫黄は一部肥料の原料であると同時に、硫酸に加工され、鉱業やさまざまな産業用途で不可欠な資源です。また、ヘリウムもカタールの天然ガス処理の副産物であり、近年では世界供給量の最大3分の1を占めてきました。半導体産業をはじめ、多くの分野で不可欠な素材です。
チャート:金/原油比率
下のチャートは、金1オンスで購入できるブレント原油のバレル数を示しています。イラン戦争勃発後、原油価格が大きく上昇したにもかかわらず、インフレリスクを反映して金価格が連動して急騰する局面は見られませんでした。それどころか、初期の上昇後、金価格はむしろ下落しています。これは、市場がエネルギー価格の上昇がもたらすインフレに対して、経済が以前ほど脆弱ではないと考えていることを示唆しているのでしょうか。
GDPに対するエネルギー集約度は低下しており、エネルギーに占める原油の比率も1970年代の前回の大規模石油危機当時に比べて大きく下がっています。それでもなお、原油は経済活動にとって不可欠な投入要素です。金市場が今回のエネルギー価格上昇をさほど問題視していないのは、「原油価格の急騰は最終的に必ず沈静化する」という市場の学習効果を反映しているのでしょう。2007~08年、2011~14年の大幅上昇、さらには2022年のロシアによるウクライナ侵攻時の急騰も、最終的には収束しました。この見方が今回も通用するのか、注視する必要があります。一方で、ここ数年の金価格上昇は、インフレ懸念というよりも、法定通貨の価値毀損に耐性を持つ新たなポートフォリオ資産を求める世界的需要によるところが大きく、多くの投資家が債券をもはや安全資産とは見なしていないことの表れと考えられます。

本レポートにおける重要な注意点として、イラン戦争を巡る情勢とその影響は急速に変化しており、世界の市場心理や経済・市場の先行き見通しが、良くも悪くも大きく変わり得る点を強調しておきます。展開シナリオは無数に存在しますが、ここではリスクに焦点を当て、以下の2つの大まかなシナリオに集約します。
市場を左右する最大要因-エネルギー価格
本レポート執筆時点では、期近のブレント原油は1バレルあたり約102米ドル、6か月先の先物は約85米ドルで取引されています。これは割安なのでしょうか、それとも割高なのでしょうか。仮に、この見解を述べた直後の数日間で不確実性が完全に解消されるのであれば、割高と言えるでしょう。しかし、供給不安が長期化するシナリオを考慮すると、特に先物価格はかなり割安に見えます。
参考として言えば、3月中旬の時点ですでに2週間以上にわたる深刻な供給混乱が発生しています。仮に即座に情勢が安定したとしても、原油供給が平常水準に戻るまでには少なくとも1~2か月を要し、さらに通常の需要を満たしたうえで備蓄の積み増しも必要になります。要するに、市場は極めて楽観的なシナリオを前提に価格形成を行っているということです。この見通しが正当化されるためには、本レポートが読者の目に触れる頃までに、明確な改善が相当程度進んでいる必要があります。そのような展開となることを願いたいところであり、その場合には、以下で示すより前向きな中長期の世界経済および市場見通しを前倒しで評価できることになるでしょう。
シナリオ1で想定される展開
原油・天然ガス: このシナリオでは、不確実性は第1四半期末から第2四半期初めの数週間までやや長引き、サプライチェーン全体に滞留が残ると見られます。その結果、原油および天然ガスの期近価格は、さらに数週間にわたり直近レンジの上限近くで推移する可能性があります。一方、より長期の価格については、供給混乱の規模と期間が市場に認識されるにつれ、ブレント原油で80ドル未満という市場予想ではなく、80~100ドルのレンジへと徐々に切り上がる可能性があります。
天然ガスの供給混乱は解消にやや時間がかかり、LNGへの依存度が高い主要市場では、一定期間高価格が続くことでインフレへの影響が残ると考えられます。
世界の株式市場:このシナリオでは、企業利益や景気減速への懸念から、世界株式は調整局面、または調整に近い状態で不安定な値動きが続くと見込まれます。ただし、政策当局が引き続き「経済を高温で回す(run it hot)」戦略、すなわち名目経済を活発に維持するための財政・金融政策、特に戦略的に重要なサプライチェーンへの支援を継続するとの見方から、下落のダメージは限定的にとどまると考えられます。
要するに、成長率は鈍化するものの、財政・金融政策は環境に対して引き続き循環促進的であり、中央銀行はインフレ再加速に対して十分な抑制姿勢を示さない可能性が高いということです。多くの株式市場では第2四半期にかけて重要な底を形成し、その後、年後半にかけて欧州、日本、その他米国を除く先進国市場で回復が見込まれます。
新興国市場については、エネルギー価格上昇や市場全体のボラティリティ、特に米ドルの底堅さによって成長の逆風にさらされる可能性がありますが、これは長期的に新興国に強気な見通しの中での一時的な減速にすぎないと見ています。新興国経済は過剰債務が比較的少なく、成長ポテンシャルが高いこと、そして当社の長期的な米ドル弱気見通しとも整合的だからです。
米国株式-AI関連のリスク: 米国市場は、マグニフィセント7と呼ばれる超大型株だけでなく、多くの情報技術・ソフトウェア企業が指数内で大きな比率を占めているため、テクノロジーおよびAIへの依存度が最も高い市場です。投資家向けの第2四半期見通しでも述べた通り、AI分野は多様な方向に進んでおり、一部の企業は巨額投資を吸収し利益率を拡大している一方、投資を行う側は収益性の維持を証明する必要があり、ソフトウェア企業はAIによる事業破壊を回避できるかが問われています。
こうした状況を踏まえると、昨年10月以降5か月にわたり横ばい推移が続いた後でも、時価総額加重型の米国株指数には、全体として横ばいから下振れ方向のリスクが残っています。最もネガティブな不確定要因は、エネルギー価格の急騰を理由に、AIデータセンター向けの将来の設備投資計画が大幅に削減される可能性です。一方で、情報技術分野以外の米国株については、第2四半期に形成されるサポート水準から力強く回復する可能性があります。なお、イラン戦争が勃発する前日、均等ウェイトのS&P500指数は史上最高値を更新していました。
FX・貴金属・金利:日本の動きがヒントを示す: イラン戦争によって市場が不意を突かれた第1四半期、米ドルは大きく上昇しました。これは不確実性の高まりを受けて、市場参加者が大きく積み上がっていたドル売りポジションを解消したためです。エネルギー価格の急騰は、新興国や日本(GCC産原油への依存度が高い)、欧州にとって最も打撃が大きい一方で、特に天然ガスにおいて米国はこうした混乱に対してほぼ耐性を持っていることから、この反応は合理的と言えます。
米国債利回りおよび世界の国債利回りは、原油高がインフレを押し上げ、中央銀行のハト派姿勢が後退、あるいはタカ派化するとの見方から上昇しました。第2四半期に向けて市場は、例外はあるにせよ、インフレ再加速時に中央銀行が実質的な歯止め役を果たすという見方から次第に離れていく可能性が高いでしょう。むしろ政策当局は、特に防衛、レアアース、工業分野、さらには米国における手頃な住宅供給を支える住宅建設サプライチェーンといった、戦略的に重要な分野への支援を通じて、「経済を高温で回す(run it hot)」戦略を追求すると見られます。
日本において、高市首相が強力な多数派を背景に財政拡張と成長志向の政策を進めていることは、世界にとって一つのモデルケースを示しています。
米国も、5月にパウエルFRB議長が退任すれば、今年中に日本の動きを追随する可能性があります。その場合、ベッセント氏と、FRB議長に就任するウォーシュ氏の体制のもとで、主要産業向けの信用拡大を支援し、全体として抑制的でない政策が志向されるでしょう。このシナリオでは、米ドルは第2四半期初めにピークを打ち、その後、日本市場に対して市場が織り込んでいるような拡張的政策を背景に下落へ転じ、他の多くの通貨は対ドルで上昇すると見られます。
日本は通貨防衛のために投資資金の国内回帰を促す必要がありますが、円は欧州通貨を上回るパフォーマンスを示す可能性があります。欧州は対応が遅れがちですが、最終的には世界の潮流に追随する可能性が高く、その結果、年後半にはユーロ高が政策的な調整を迫られる局面も考えられます。新興国通貨は、このシナリオでは四半期中に底打ちし、米ドルの再下落を背景に再び上昇し始めるでしょう。金と銀は、依然として高水準を維持しつつ、年後半に向けた再上昇の前に一時的な踊り場を迎える可能性があります。
シナリオ2では、イラン政権が維持され、引き続きドローンやミサイルを用いて地域内での攻撃能力を保持することで、第2四半期の深い段階までホルムズ海峡を通過する原油輸送量の3分の1以上(サウジアラビアの東西パイプラインなどの緊急的な代替ルートを含む)を阻害する可能性があります。その他の混乱要因としては、イエメンのフーシ派が紅海での原油輸送を妨害すること、あるいはイランがサウジアラビア、UAE、イラク、クウェート、カタールにおける主要パイプラインや生産施設に深刻な損害を与え、その結果、原油や天然ガス供給の再開見通しが立つまでに数か月を要する事態などが考えられます。このような展開は望ましいものではありませんが、無視できない「ゼロではないリスク」が存在することも念頭に置く必要があります。
シナリオ2で想定されるのは、市場全体で急激なリスク縮小・ポジション整理が発生する展開です。シナリオ2は、過去最大級の危機であるコロナ禍といくつかの共通点を持ちながらも、重要な違いを有しています。このシナリオでは、原油価格が1バレルあたり150米ドルへと急騰し、その水準が長期間続く可能性があります。加えて、戦略備蓄の大規模な放出にもかかわらず、実際の供給不足が発生することで、経済活動の相当部分が停止に追い込まれる恐れがあります。
世界の株式市場は、急激な世界的景気後退リスクを織り込まざるを得ず、その際の財政・金融政策対応は、コロナ禍とは大きく異なる難題に直面します。当時は、需要の急減を補うために中央銀行と政府が大量の資金供給を行いましたが、その「無償所得」は、供給網が機能不全に陥る中でインフレを加速させました。
一方、今回のシナリオでは、中央銀行や財務当局は需要喚起よりも、金融システムの健全性維持を重視せざるを得ないと考えられます。また、原油や天然ガスそのものを「発行」することはできません。コロナ禍と同様の政策対応を取れば、前回以上に非効率的で破壊的なインフレを引き起こす可能性があります。
もちろん政策対応は行われるものの、その主眼は住宅ローン市場や債券市場の安定確保、人々の生活基盤の維持に置かれ、広範な需要刺激には向かわないと見られます。強力な支援が続くのは、防衛産業など、より戦略的に重要な産業やサプライチェーンに限定されるでしょう。
その結果、急激な成長低下を背景とした広範な景気後退が想定され、プライベートクレジットなど、レバレッジが高く不透明な債務市場の一部では深刻な混乱が生じる可能性があります。また、データセンター投資をはじめとする分野でも大幅な減速が想定されます。こうした局面は長期的な期待リターンにとって魅力的な出発点となり得る一方で、信認への打撃は大きく、回復には今年いっぱい、場合によっては来年にかけて時間を要する可能性があります。
このシナリオでは、エネルギー供給が正常化することを前提としても、回復局面に入る前に、米ドルの大幅な上昇と、新興国債券・株式やハイイールド債など流動性の低い資産における極端なボラティリティが顕著なリスクとして浮上します。

ホルムズ海峡での原油やLNG供給が正常化するのを待つ間に、なぜ米国がこの戦争をより大きな地政学的戦略の中で選んだのかを考える必要があります。
一部の見方では、米国がイスラエルと組んでイラン政権を標的としたのは、中東の同盟国への直接的な脅威というよりも、中国に安価なエネルギーを供給するルートを断つ狙いがあったとされています。中国は、制裁下のイラン原油を割引価格で購入してきた最大の顧客でした。
もし深い戦略的意図があるとすれば、それは米国が中国の影響力拡大に強い危機感を抱いている点にあります。中国は製造業やレアアース、さらには半導体といった分野で圧倒的な立場にあり、米国はその依存関係を問題視せざるを得ません。そのため、米国にとっては、中国の弱点である「エネルギー輸入依存」を突く動機があるとも考えられます。
この観点から見ると、中東における米国のより強硬な姿勢は、単なる地域危機管理にとどまるものではありません。むしろそれは、世界の原油・天然ガスのフローに対する影響力を強め、サプライチェーンの他の領域で中国が持つ戦略的優位性を相殺しようとする、より長期的なパワープレイを意味します。もしこれが実際に政策判断の一部であったなら、ワシントンは事態が迅速に進展し得る-当初4月1日前後と見込まれていたトランプ・習首脳会談の前に地域バランスを組み替えられるほどに-と考えていた可能性があります。中国向けの主要原油供給源が急激に遮断されることに加え、ワシントンと中東主要国との連携がより強固になることは、北京とのより広範な交渉を前に米国の交渉力を高める手段と見なされたのかもしれません。
ただし、これは依然として推測の域を出ません。米国が本当にこのレベルで戦略を統合して考えているのかは不明であり、中国がどのように反応するかはなおさら不透明です。本稿執筆時点では、トランプ氏は習氏に対し首脳会談を1か月延期するよう求めています。私たちは、双方が重要資源へのアクセスを「武器化しない」ことで事実上合意するような、大きな妥結-いわゆる「ディール」-に向けて事態が進展することを期待したいところです。もっとも、貿易摩擦の再燃や、より鋭い戦略的対立へと発展するリスクも当然存在し、その場合、世界の見通しは大きく暗転する可能性があります。