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グローバル投資戦略責任者
市場はサッカーチームによく似ており、スター選手はしばしば印象的なゴール、まばゆいばかりのファンの熱気、そしてチームの成功を駆り立てて、ニュースの見出しを飾ります。しかし、少数の星(スター)だけに頼りすぎるのは危険です。投資ポートフォリオもこれと同じ課題に直面しています。ここ数年、米国株、特に大手テクノロジー企業は、優れたリターンで投資家のポートフォリオの大部分を占めてきました。しかし、今日では、極端な集中、高いバリュエーション、政策の不確実性が、投資を米国外に分散させることが重要である理由を浮き彫りにしています。
サクソバンクグループでは、この戦略を「BABAトレード」、つまり「アメリカ以外のものを買う(Buy Anything But America)戦略」と呼んでいます。これは、米国株式を完全に放棄することを意味するものではありませんが、投資の視野を広げ、将来に向けてよりバランスの取れた回復力のあるポートフォリオを構築することが急務であることを強調しています。
今年初めに経験したボラティリティは、特にトランプ大統領の関税発表に端を発した4月の市場の急激な変動を受けて、投資戦略を見直すための理想的なチェックポイントとなります。最近の混乱があなたに大きな不安を引き起こしたのであれば、あなたのポートフォリオはあなたの個人的な許容範囲に収まる適切なリスクを超える過大なリスクを背負っている可能性があります。今こそ、ポートフォリオを適切に分散し、成長に向けたエクスポージャーと将来のボラティリティに対する緩衝材となる資産とのバランスを取るときです。
現在、米国株式市場は、これまでにないほど集中した状態となっています。7大テクノロジー企業、つまり「マグニフィセント・セブン」は、今やS&P 500の32%という驚くべき高い割合を占めています。この集中度合をよりわかりやすく表現すると、これら7社を合計した株式時価総額は、欧州株式市場全体の時価総額を上回っています。個々には、Apple、Microsoft、Nvidiaなどの大手企業が、ドイツのDAX指数や英国のFTSE100指数など、欧州市場全体の株価指数の時価総額を上回っています。このような前例のない集中は、これら少数の米国の超大型株に過度に資金を投じている人々の投資リスクを大幅に高めます。
さらに、マグニフィセント・セブンは幅広い投資家によって保有されていることから、市場のストレスやボラティリティの高まり時には、これらの銘柄が清算の最有力候補となることがよくあります。投資家は通常、好む・好まないというよりも売り易いものを売るため、投資家が高い比率で保有しているこれら超大型株のボラティリティが悪化しています。その結果、これらの銘柄への投資配分が高くなっているポートフォリオは、激動の市場環境下で価値の変動が増幅される可能性があります。
米国市場が他のグローバル市場と比較して非常に大きい時価総額を有していることを考えると、投資家の資本が米国株式から割安な国際市場にわずかにシフトするだけでも、これらの小規模な市場のバリュエーションは大幅に上昇する可能性があります。したがって、今分散投資を行っている投資家は、これらの潜在的に強力なトレンドに先んじて戦略的にポジションを取ることができます。
集中リスクを除けば、米国株式は依然として割高で、フォワード・リターン(1年後の予想利益)の約22倍の価格で取引されており、過去の平均を大きく上回っています。実際、過去20年間で93パーセンタイル(100分位)と高いので、米国市場がこれほど高価であったのは20年間のうち7%の期間に過ぎないことを意味します。
さらに、米国の政策環境はますます不安定化しており、貿易摩擦の継続や規制の変更の可能性などにより、国際的な(米国外の)投資家にとっての米国市場の魅力はさらに損なわれています。
特に欧州の投資家にとっての重なる課題は、米ドル安です。我々は、米ドル安が2025年中ずっと続くと予想しており、これにより欧州の投資家は米国に保有する資産のリターンが直接的に減少し、複雑さとリスクがさらに高まると予想しています。
逆に、米ドル安は、新興国株式にとって重大なプラスの追い風となります。歴史的に、新興国株式は、競争力が向上し、外国からの投資資金の流入が増加し、債務の負担が緩和されることによって、ドル安の恩恵を受けることとなるでしょう。米ドル安が続くと予想され、経済のファンダメンタルズも改善する中、今では新興国株式が特に魅力的な投資先となっています。
欧州は、ドイツの野心的な5,000億ユーロのインフラ・近代化のイニシアチブに先導され、過去数十年で最も広範な財政刺激策を実施しています。この複数年にわたる構造的投資(基盤整備のための投資)は、まだ市場に完全には織り込まれておらず、魅力的な機会を提供しています。
欧州株式は今年、米国市場を著しくアウトパフォームしており、投資家は、このポジティブな刺激策がすでにどれだけ価格に反映されているのかという疑問を投げかけています。確かに楽観的な見方は織り込まれていますが、これらのイニチアチブに基づく新しいプロジェクトや戦略の規模が非常に大きく、それらが複数年にわたることから、さらなる評価の余地がかなり残っていることが示唆されます。
前回の見通しでは、「欧州の独立性」というテーマを強調しましたが、これは引き続き有意義な価値を提供しています。第2四半期には、この投資テーマに関連する株式銘柄のリターンは欧州市場全体のそれを大きく上回りました。実際、サクソバンクグループの当該厳選テーマのリストに組み入れられた銘柄のリターンは9%だったのに対し、ストックス欧州600指数(Stoxx 600)のそれは4.1%でした。この結果は、欧州の強靭性と戦略的自律性への投資が引き続き適切であり、将来の可能性があることを強調しています。
インフラ、産業機器、建設、再生可能エネルギー、防衛などに関連する企業は、引き続き堅調な投資機会を提供しており、特にスペイン、ドイツ、イタリアでは魅力的な可能性が認められています。ドイツ政府の野心的なインフラ支出は、産業とオートメーションの分野に属するリーダー的企業に大きな恩恵をもたらし、スペインのダイナミックな経済の勢いと繁栄する銀行および再生可能エネルギーのセクターは、魅力的な投資のエントリーポイントとなっています。イタリアは、経済ファンダメンタルズの改善と的を絞った財政投資に支えられ、金融、公益事業、建設セクターで魅力的なバリュエーションを提供しています。
セクター別では、魅力的なバリュエーション、しっかりとした収益の回復力、安定した配当利回りにより、金融、特に銀行については特に楽観的な見方を維持しています。グリーンエネルギーと公益事業は、欧州の加速するエネルギー転換の動きに牽引されて、構造的な成長をもたらすとみられます。工業・インフラのセクターは、継続的な財政刺激策の恩恵を受け、収益の見通しと成長の可能性の両方を押し上げるでしょう。
注目すべき主なリスク: 上記のように楽観的な見方をしておりますが、投資家は、EU内の政治的分断、景気刺激策の実施が予想よりも遅れる恐れ、インフレ圧力が長引くことで企業の利益率に影響を与える可能性があること等、欧州が直面する潜在的な課題に引き続き留意する必要があります。
日本市場への投資については、もう一つ強力な分散についての話があります。歴史的に、コーポレートガバナンスが弱く、株主への報酬が限られていることで知られる日本ですが、静かに有意義なコーポレートガバナンス革命を遂げています。企業は、収益性、高配当、株主還元の改善にますます注目しています。
日本株は、日本銀行による緩和的な金融政策の継続に支えられ、フォワード・リターン(1年後の予想利益)の約15倍という魅力的なバリュエーションを維持しています。これらの改革と魅力的なファンダメンタルズにより、日本株は優れたグローバル分散投資の機会を提供しています。しかし、円高が伝統的な輸出主導型ビジネスに課題をもたらす可能性があるため、投資家は特に国内志向の企業に注目し、防衛関連セクター内の銘柄を選択することをお勧めします。
注目すべき主なリスク: 投資家は、世界経済の減速から影響を受けるとみられる日本のグローバル企業のエクスポージャー、輸出に影響を与える可能性のある円高に対する感応度、コーポレートガバナンス改革が失速したり投資家の期待に応えられなかったりするリスクを注視すべきです。
いくつかの新興国市場の株式は、フォワード・リターン(1年後の予想利益)の約13倍という魅力的な価格で取引をされており、大きな成長の可能性を秘めています。インド、ブラジル、インドネシア、メキシコなどの国々は、国内経済が堅調で、収益の勢いが増し、通貨の安定が進んでいます。
米ドル安が予想されることで、これらの市場の魅力がさらに高まり、欧州の投資家にとっての為替調整後リターンが向上しており、地理的な分散の事例を際立たせています。
注目すべき主なリスク: 新興国市場は、世界の投資家心理の変化、政情不安、政策変更に対して引き続き敏感です。これらの新興国にとって、地政学的な緊張の高まりや一次産品(コモディティ)の価格の変動も、持続的な成長に対する潜在的な脅威となっています。
中国株への投資に関しては、より慎重な話と捉えるべきでしょう。バリュエーションが歴史的に低くなっている(フォワード・リターン(1年後の予想利益)の約10倍の価格で取引されている)ため、間違いなく上振れの可能性はあります。しかし、政策の不確実性、地政学的な緊張、構造的な課題が引き続き残っていることから、投資家はボラティリティに注意しながら、戦術的かつ選択的に中国市場にアプローチする必要があります。投資家は、グリーンエネルギー、電気自動車、先端製造業、デジタルインフラ・テクノロジーなど、中国政府の政策により明確に支援されると考えられるセクターや、国内市場で高い地位を占める企業に特に注目すべきです。
注目すべき主なリスク: 規制リスク、米国との継続的な貿易摩擦、不動産セクターの課題、消費者信頼感の水準などは、中国の経済成長の軌道や市場センチメントに大きな影響を与える可能性があるため、投資家は注意深く監視する必要があります。
地理的な要因を超えて、注目に値する二つのテーマ別投資機会があります。
人工知能の初期のブームは高価な米国のハードウェア株に集中していました。しかし、人工知能(AI)の次の成長段階は大幅に広がり、企業ソフトウェア、ヘルスケア、産業オートメーション、金融サービスにおいて人工知能(AI)を効果的に活用する世界的な企業に利益をもたらしています。欧州と日本は、この生産性主導のAIイノベーションの波への魅力的な参入ポイントを提供しています。
持続的な地政学的緊張は、堅調な世界的防衛支出を支え続けています。特に欧州の防衛関連株は、政府予算の増加と戦略的自律性のイニシアチブによって急上昇しています。安全な契約と政治的なコミットメントが基盤を提供する一方で、バリュエーションの急速な上昇について投資家は注意を払う必要があるでしょう。
現在のバリュエーションは、多くの場合、楽観的な長期的成長シナリオを反映しており、追加のポジティブな相場を動かす材料がない限り、どれだけの上昇余地が残っているかについて疑問を投げかけています。投資家は収益の持続可能性、政策の実行、広範な経済状況を慎重に監視し、高いバリュエーションが将来のリターンを抑制する可能性があることを認識する必要があります。サイバーセキュリティは、国家および企業の安全保障にとって不可欠であり、まだ比較的株価が上がりすぎておらず、補完的な構造的投資機会を提供し続けています。
選手権で試合をするサッカーチームのように、成功する投資ポートフォリオは戦略的なバランスと分散を採用しており、ほんの一握りのスター選手だけでゲームをするのではありません。今日の米国市場における極端な集中は、この時を超えた投資原則がかつてないほど妥当である理由を強調しています。欧州、日本、新興市場に思慮深く分散することで、ポートフォリオを戦略的に位置づけ、変化する世界的な投資の流れ、構造的な機会、有益な通貨の動向から利益を得ることができます。