インフレは止まらない暴走列車 インフレは止まらない暴走列車 インフレは止まらない暴走列車

インフレは止まらない暴走列車

スティーン・ヤコブセン

最高投資責任者(CIO)

サマリー:  人間の心理は、常態性と予測可能性を強く必要とします。これは、パンデミックによってカオスが引き起こされ、ウクライナでの戦争がそれに続いて以来、投資家と政策立案者が望んできたことです。しかし、現在の変化のペースの激しさとボラティリティは、当分の間は収束しないでしょう。2022年の後半、さらにその後のしばらくの間平穏に戻ることは期待できません。


今回のQuarterly Outlookでは、経済の十分な見通しの良さと低インフレから、高いボラティリティと高インフレへのパラダイムシフトを経験する場面で、経済と市場がどのように反応するかについて述べます。さらに、今回述べるのは本当のパラダイムシフトであり、カーター大統領とボルカーFRB議長が1970年代終盤に、バイデン大統領とパウエルFRB議長が今試みていること、つまりインフレ抑制を実行して以来、現代史においてまさしく初めての規模の本当のパラダイムシフトです。当時は人口が若く、公共部門と民間部門の両方のレバレッジが低かったので、この課題は現在よりもいくらか容易でした。現在は、より高齢化した資産豊かな民間部門と、膨大な債務を負った公共部門を抱えています。ここからが本題ですが、それは簡単なことではありません。

過去20年間の際限のない政策支援は、つまずきが起こるたびに、無限の金融緩和と景気循環に対抗する潤沢な財政刺激策が講じられるということが主なマクロ政策となってきていたので、投資家に有利に働いてきました。押し目買いの心理が支配的となり、この行動は、政策立案者が「電車の速度」(経済に注ぎ込まれるマネーの量)を増加させ続ける一方で、グローバリゼーションによる労働力と安価なエネルギーの裁定取引のために、商品のインフレに対する影響は皆無または無視できる程度だったことから、毎回報われていました。低下する一方の政策金利が推進力となったレバレッジの上昇によって、資産インフレが激化する中でも同様でした。

「グレートモデレーション」は当時の物語であり、バーナンキ元FRB議長は、この時期に四半期GDPの標準偏差が半分になり、インフレ率が3分の2低下したと豪語しました。言い換えれば、経済はかつてないほど予測可能でボラティリティが低いものになったと想定されたわけですが、それが、ますます緩和的な政策金利、隠れたレバレッジとグローバル化によるそのとき限りのプロセスであることは、認識されていませんでした。経済または市場が道路上の段差に直面するたびに単に緩和することができるという一見したところ終わりのないサイクルは、財政刺激のために単純に貨幣を印刷することに対する実質的な障害はないと主張した現代貨幣理論(MMT)の空想にふけることさえ可能にしました。

しかし、政策刺激の最終段階では、政策金利が実現インフレ率を下回る水準まで低下し始めたために、不均衡の拡大を加速させました。その結果、マイナスの実質利回りが深くなり、それは資産価格の上昇を刺激し続けるためには必要でしたが、マイナスの実質金利が非生産的投資をますます推進した結果、資本リターンの低下ももたらしました。

私たちは過去20年間で、物理的な財と活動の「実物経済」を犠牲にして経済の金融部門が成長し続ける経済と社会を作り出してきたのです。簡単に言うと、実物経済は相対的にあまりにも小さくなっており、このことは、パンデミックの発生後、需要を支えるために金融経済から生み出された巨大な圧力がインフレに直結したことによって、突然に、痛々しく明らかになりました。インフレに直結したのは、供給サイドである物理的経済が、需要の段階的な増加に対応することが到底できなかったからです。操業停止によって生産が制限されたことがその部分的な原因でしたが、エネルギーインフラへの長期的な過少投資と、はるかに高価な代替エネルギーへの移行という夢が、要するに物理的世界が追い付けないことを意味していたからでもあります。

S&P500のエネルギー構成銘柄は、パンデミックの発生段階の最近における極端な低水準では、同指数の時価総額の3パーセント未満まで落ち込みました。これは、いずれもデジタル金融の世界からの最も価値の高い5社が同指数の25パーセント超の時価総額を有していた時です。一方、年金基金、政府系ファンド、資産運用会社、さらには政府(スウェーデンとフィンランド)までもが、私たちの日常生活の基礎となる経済活動の大部分をこのエネルギーが動かしているにもかかわらず、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関するマンデートのために化石エネルギーへの投資を禁止しました。そして次に、ロシアのウクライナ侵攻が火に油を注ぎました。

こうして現在に至り、2022年後半に関する当社の中核的見通しが形作られました。中央銀行の関係者は、18か月以内に2パーセント程度のインフレ目標まで「正常化」することが可能だという考えを相変わらず広めています。
しかし、欧州と米国の両方で、インフレ率が8パーセント超に達し得るとは一度も考えたことがないこの同じ人たちに、耳を傾ける理由があるでしょうか。期待インフレ率が急速に上昇していて、二巡目のインフレ効果を推進しており、それによって、暴走列車が抑制されるまで、中央銀行あるいは市場が現在認識しているよりもさらに中央銀行が引き締めることを必要にし、深い景気後退を生じさせる可能性が高くなっている、ということがリスクです。

これが、2022年第3四半期に注目しておく必要がある次のマクロ政策の変化と対応を作り出します。より高いインフレ率か、深い景気後退かという政策の選択を考えると、インフレターゲットを2パーセントから引き上げるように中央銀行に直接または間接的に指示することが、政治的な答えになる可能性が高いと思われます。その明るい面は、うまく行けば引き締めの必要性を幾らか軽減することを意味することですが、同時に、マイナスの実質金利、つまり金融抑圧が現在では実際に組み込まれた政策目標であることも意味します。最も脆弱な人々のための電力、暖房、石油および食品に関する支援制度によって需要が補助されている一方で、政策金利の引き上げが需要破壊とインフレ率の押し下げに向かう中でゴルディロックス的な水準がどこかに存在すると考えることも、リスクの高い賭けです。この政策論の落とし穴は、そのどれも経済の不均衡に対処するものにならないということです。FRBがインフレターゲットを2パーセントにするのか3パーセントにするのかによって、より安価なエネルギーが作り出されるわけではありません。はっきりしていることは、政治システムがインフレに関する「ソフト・オプション」を選好するだろうということです。その重要な要素は、政府の資金調達を維持するための金融抑圧(実質金利をマイナスに維持することにより債務返済負担を軽減すること)と、インフレを通じた公的債務の実質価値の引き下げです。これはまさしく、インフレ率が構造的に上昇し続ける原因になります。第3四半期以降には、新たなサイクルでは政治的支配力が金融引き締めよりもはるかに大きな特権を振りかざし、金融政策は絶えず後から追いかけるようになることが、より明らかになるでしょう。グレートモデレーションが終わりを告げた今、グレートリセットの時代の到来です。

 


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