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グローバルマクロ戦略責任者
サマリー: ルール#2では、非常に割高な米国株式市場と、投資家やトレーダーが米国株へのエクスポージャーについて心配する必要があるかどうかについて考察します。
注: 当記事はマーケティング用の資料であり、投資助言ではありません。
当記事は、トランプ2.0時代の投資家とトレーダーのためのルールに関する4部構成の記事シリーズの第2部です。最初の第1部の記事では、トランプ氏が大統領就任当初に関税と貿易問題を優先したことで、市場の信頼が急速に損なわれ、主要な貿易相手国との貿易協定を交渉するために少なくとも90日間、厳しい「解放記念日」の関税の水準から一歩引いたことで、市場にアニマルスピリットが戻ってきたことを振り返りました。
市場がある程度落ち着きを取り戻したにもかかわらず、トランプ大統領の2期目の最初の数週間を終えた後の最初のルールは、「ルール#1:政策と市場のボラティリティは続くでしょう - それを受け入れてください。」です。ルール#1の主なポイントは、米国の政策が、米国の財政赤字を削減し、米国の産業基盤を再構築し、中国の台頭を抑制することにより、世界経済における米国の立場を再均衡させることを目指している新しい時代に我々がいることを思い起こすことでした。トランプ大統領の混沌としたスタイルは、短期的には山と谷を分けるかもしれませんが、米国の政策の地殻変動の影響、特に世界の他の国々がどのように対応するかが、おそらく投資家が一世代で経験したことのないようなボラティリティの新時代を牽引する非常に重要で根本的な要因になると考えられます。この新しい時代においては、(例え話として)カンザス州が1998年から2021年までの我々が知っていた世界、つまり、大小を問わず危機の脅威はすべて、中央銀行や政府が介入し、経済への巻き添え被害を避けるために大規模な流動性供給を行うことで解決されていた時代だったとして、その我々が慣れ親しんでいた世界である「カンザス州に我々はもういないのです。(オズの魔法使いより)」
ルール#1は、米国が地政学的情勢を変えているのが、経済における政治的手腕を変革し、「成長のための成長」から離れようとしている同国の執拗な動きの結果であることを考えると、世界で最も重要な株式市場、つまり米国株式市場への影響を考慮しなければならない、というものでした。そして、2つ目のルールは以下のようになります。
ルール#2:米国株式の実際の価値は過大(バリュエーションが非常に割高)であり、それが危険なほど限られた銘柄に集中していますが、この甚だしい状況がどのように巻き戻されるか(正常な水準に戻るか)についてタイミングを計るのは不可能です。
米国株式市場は完全に世界市場を支配しており、今年初めの米国株式のピーク時には、米国株がMSCIワールド・インデックスの世界株式指数の約75%を占めていました。過去と比較すると、同インデックスにおいて米国株が占める割合は、10年前は55%、1990年代は更に低い50%でしたので、現在の75%は記録的なシェアだといえるでしょう。その巨大なシェアの大きさの一部は、世界の同業他社と比較した米国株のバリュエーションによるものです。米国の株式市場全体の時価総額の約80%を占めるS&P 500構成銘柄の企業は、2025年5月下旬時点で2025年の予想利益の約22倍(予想PER)の株価で取引されています。これに対し、欧州ストックス600大型株指数は、2025年の予想収益の15倍強(予想PER)の株価で取引されています。
なぜ米国株は歴史的にプレミアム(割高なバリュエーション)となったのでしょうか?
米国株式市場が世界の株式市場をアウトパフォームしているのには、いくつかの非常に正当な理由があります。まず、米国市場が特別な理由から始めましょう。
高い収益性と高い成長率を持つ非常に大きな企業の存在: これは簡単なことです - 米国は歴史上最大かつ最も収益性の高い企業の本拠地であり、そのうちの6社は、現在時価総額で史上最大の7社である、いわゆるマグニフィセント7(Magnificent 7)に入っています。驚くべきことに、これらの企業、およびまだ非常に大規模な企業のかなりの数は、主にテクノロジーおよび通信サービス業界で事業を展開しており、多くが業界内で独占的な地位にあるため、高利益率で高い成長率を維持できています。マグニフィセント7の中で、史上最速で株主価値を創造したのはエヌビディア(Nvidia)で、同社のAI用の半導体チップにより、同社は現在3兆2,000億米ドルという世界第2位の価値を持つ企業となっています。この会社は、2022年後半の安値から1,000%以上上昇しています。もちろん、これら米国超巨大企業の非常に重いウェイトは、米国株式市場の投資家にとっての危険性について以下で記述しているように、独自のリスクをもたらします。しかし、2014年から2024年の期間に、米国のS&P 500指数の構成銘柄が合計119%の利益成長を遂げたのに対し、欧州のストックス600の構成銘柄の同期間の利益成長は62%にとどまりました。
パッシブ投資: パッシブ投資とは、既存の株価指数と株式の比重に基づいて市場に資金を配分する投資の仕方です。これは、勝者となる株式銘柄に毎月ますます多くの資金が割り当てられることを意味します。大手企業の株式は、通常、主要な株価指数に連動する人気が高まっているパッシブなETFに組み込まれているため、全体の仕組みとしては一種の自己強化フィードバックループとして機能し、米国は最大かつ最も成功した企業を擁する最大の市場であるため、最も恩恵を受けています。
株主に焦点: 最も成功している米国企業のほぼすべては、会社の株価が好調に推移するよう、ストックオプションを通じてインセンティブを受ける企業幹部によって運営されています。企業自身と、多くの場合、他の多くの従業員を含むすべての株主に報いるために、企業はしばしば利益をリサイクルし、時には自社が発行した株式を買い戻すためにお金を貸し付けます。例えば、アップル(Apple)は自社株買いに積極的な企業の1つです。2014年から2024年にかけて、同社は80億株以上の自社株を買い戻し、発行済み株式を35%以上削減しました。
法の支配、市場アクセス、市場の透明性: 米国は世界で最も深く、最も流動性の高い市場を持ち、投資家を強力に保護し、財務報告に関して高い基準を設けています。この状況が変わる可能性は低く、米国にとって大きなプラス材料であり続けるでしょう。
では、ここからアメリカの「例外主義」を脅かし得る要因が何かを考えてみましょう。
さて、米国株式市場の強みがわかったところで、いくつかの弱点について考えてみましょう。
特定の上位企業による信じられないほどの寡占状態: 米国市場はかつてないほど集中しており、一握りのグローバル企業が時価総額で米国市場全体に占める割合がこれほど大きくなったことはありません。S&P 500指数の構成銘柄は、また米国株式市場全体の時価総額の約80%を占めるに至っており、マグニフィセント7だけでも米国株式市場全体の時価総額の約32%を占めています。また、すべての先進国市場を代表する指数であるMSCIワールド・インデックスを見ると、マグニフィセント7は世界全体の20%を超えています。これらの企業のいくつかに何か問題が発生した場合、主要な米国市場指数は大きな打撃を受けるでしょう。
トランプ大統領の政策と世界の反応: ルール#1で述べたように、トランプ大統領は世界におけるアメリカの立場を変えようとしています。これが米国企業に利益をもたらす可能性や方法はありますが、おそらくそれ以上に、すべての米国企業、特に収益のかなりの部分を海外から得ている企業には大きなリスクがあります。1つ目は、世界の投資家やポートフォリオマネージャーが、不安定で破壊的なリーダーによって運営されている米国でリスクの大部分を負う価値があるかどうかを判断する際に考慮する「本国送還取引」のリスクです。同様に、トランプ大統領の貿易政策が裏目に出て、EUなどが多くのマグニフィセント7が提供するような「デジタルサービス」に異例の税金を課し始めれば、米国の収益を生み出す潜在能力が損なわれる可能性があります。 また、米国は、近年、世界の他の国々と比較して高い米国経済成長率の多くを牽引してきた政府支出の大幅な新規拡大を許す余裕はありません。一方、欧州、特にドイツは、トランプ大統領が米国の安全保障上の欧州へのコミットメントから手を引く意図があるように見えることに警戒感を募らせており、今後数四半期で欧州の成長率がアウトパフォームする可能性のある大規模な財政拡大を開始する予定です。
為替リスク: ネタバレ注意!ルール#3で取り上げるように、米ドルは大幅な下落が予想される可能性があり、これは一部には、トランプ大統領が主要な貿易相手国による不公平な通貨慣行と見なすものを巻き戻すという意図によって推進され、米国が価格競争力を失う可能性があります。これは、米ドル以外のベースでの米国株式市場のパフォーマンス、特に米国に国内に大きく焦点を当てている米国企業にとって、重石となる可能性があります。すでに今年(5月23日現在)、米国のS&P500指数はユーロベースでSTOXX欧州600指数を大幅に下回っており、米国のS&P500指数は10%強下落しましたが、STOXX600は8.3%上昇しています。ドイツのDAX指数は今年、なんと19%も上昇しています。ちなみに、洗練された投資家にとっては、為替リスクを直接ヘッジする方法がありますが、それも追加のリスクをもたらす可能性があります。
我々はどうすべきか?
投資の第一のルールは、パニックにならないことです。ルール#2が述べているように、米国市場が非常に高く評価され、危険なほど集中しているという「問題」を特定することはできますが、だからといって、米国株が短中期的にアンダーパフォームし続けることを意味するわけではありません。もしかしたら、トランプ大統領は成長志向の部分に重点を置き始め、しばらくの間、貿易の脅威のほとんどから手を引くようになるかもしれません。この動きは、特にAIのテーマが第2、第3の風を受けると、米国市場を再び押し上げることになります。しかし、これまで概説した米国株式に対する相対的なリスクを考えると、米国以外の投資家は、米国株式市場に非常に集中しているリスクからポートフォリオを分散させるために、時間をかけていくつかの措置を講じることを検討するかもしれません。
米国株式市場への配分を減らす: 投資家に並外れたリターンをもたらした歴史的な期間を経て、グローバル・インデックスにおける米国のウェイトが70%を超えました。ポートフォリオのウェイトが現在のグローバル・ポートフォリオのウェイトを反映している場合は、グローバル・インデックスにおけるウェイトが70%を超えた米国株式への配分を減らすことを検討してみてはいかがでしょうか。
米国株式に関しては、均等加重もしくはその他のアプローチを検討します:米国の主要指数に対するエクスポージャーを「均等加重」で提供する新しいETFがいくつかあります。これには、一部の銘柄が利益の大部分を牽引している場合、利益が得られるのが、ETFがすべての指標の組み入れ銘柄への均等な投資配分を維持するためにリバランスする前の期間中に限定されるという欠点があります。均等加重は近年、時価総額加重指数を大きくアンダーパフォームしていることに注意する必要があります。これは、まさにトップ企業の驚異的なパフォーマンスによるものです。
他の市場へ配分し直します:世界の米国以外の市場ではバリュエーションが割安に見える中、米国市場への投資配分が減少すれば、ドイツから起こっている財政支出の増加がみられる欧州市場や、中国以外の新興市場への投資配分が増加する可能性があります。これは、米ドル安が米ドル建て債券の負担を軽減し、世界の流動性を全般的に支えるため、新興市場の成長に適した条件を整えるのに役立つからです。
グローバルな視点で活動する投資家にはリスクがたくさんあることは明らかで、人々やものの繋がりが急激に強まっている世界ではリスクを避けることはできません。市場の次の段階は、過去にうまくいったことを追いかけることよりも、より不安定な世界でバランスを見つけることかもしれません。ここからは、おそらく二つのシナリオがあるでしょう。一つ目のシナリオは、トランプ大統領の政策が失敗した後の多極的な世界か、それとも二つの陣営が支配するやや多極的な世界か、ということで、二つ目のシナリオは、米国市場へのアクセスを維持するために他国が米国の政策に服従するのか、それともそうではないのか、ということです。
来週のルール#3にご期待ください。