利上げ継続か中断か、それが問題だ 利上げ継続か中断か、それが問題だ 利上げ継続か中断か、それが問題だ

利上げ継続か中断か、それが問題だ

アルテア・スピノッツィ

シニア債券ストラテジスト

サマリー:  中央銀行は、1年以上にわたる積極的な金融引き締め政策がインフレ対策としては不十分であった可能性に気づきつつあります。金融情勢は依然として緩和的で、各国政府は拡張的な財政政策を続けているため、景気減速のペースは想定を下回っています。引き締めは依然として必要であり、逆イールド(長短金利の逆転現象)の度合いは第3四半期にさらに増すことになるでしょう。しかし、追加利上げは意図したようには機能しないかもしれません。だからこそ政策当局は、長期債利回りの上昇を促すために、中央銀行のバランスシートの積極的な縮小を検討する必要があります。利上げサイクルが終わりに近づくにつれ、社債やソブリン債市場では短期債の魅力的な投資機会が生じるでしょう。


中央銀行は厄介なジレンマに直面しています。すなわち、10年以上にわたる量的緩和(QE)によって生み出されたバブルを崩壊させるべきか、それとも、バブルを弾けさせずにインフレと戦うことができるのか、という問題に頭を悩ませています。

米国で500ベーシスポイント(bps)、欧州で400bpsの利上げが行われましたが、中央銀行が期待したような成果を上げていません。雇用市場は堅調を維持し、インフレ率は中央銀行の目標である2%を大きく上回る水準に高止まりしています。先進国の中央銀行がこれまでやってきたことは、逆イールドを引き起こすことでした。逆イールドは資金繰りに窮する企業を危険にさらす一方、大企業は低い長期金利を引き続き利用することができます。Amazonであれば、利率4.5%で社債を発行して資金を調達し、利回り5%以上のT-bill(米国財務省短期証券)に投資をすることができます。このような金利環境が誤ったインセンティブを生むことは、理解に難くないでしょう。インフレ対策が金融の安定性をリスクにさらすことはないという幻想が既存のバブルに拍車をかけています。

全般的な金融情勢は依然として緩和的です。シカゴ連銀の調整後全国金融環境指数(NFCI)はマイナスの水準にあり、平均的な金融情勢は足元の景気が示唆するよりも緩和的であることが分かります。しかし、実質FF金利は本年3月末に2019年11月以来初めてプラスに転じ、わずか1年余りで500bpsの利上げが行われた結果、引き締めの領域に転じました。一方、欧州中央銀行(ECB)は著しく出遅れており、実質ECB預金金利が、同中銀が景気刺激策を採っていたコロナ禍以前の下限にあります。しかし、各国政府は選挙民の支持を得るために派手な財政刺激策を続けており、危険なインフレ環境に拍車をかけています。

ECBは出遅れ 実質ECB預金金利は依然として緩和的領域に

進むべき道:利上げよりも積極的な量的引き締めが必要

量的緩和と中央銀行のバランスシートの拡大は、公式に終了したとはいえ、インフレを高止まりさせる核心的な問題であることに変わりはありません。

連邦準備制度理事会(FRB)とECBのバランスシートの総額は合計で15兆ドルを超えています。現在、両中央銀行は満期を迎えた証券の償還額を再投資してはいないものの、保有資産の積極的な売却も行っていません。このような戦略を「量的引き締め」と呼ぶのは、タカ派的な発言を行いながらハト派的な行動を行う際の方便にすぎません。インフレと戦うためには、長期債利回りを上昇させる必要があり、そのためにはバランスシートを構成する長期債を積極的に売却することです。中央銀行が予想以上の利上げを選択すれば、結果は逆になるかもしれません。指標金利が高ければ高いほど、市場が深刻な景気後退を予想するため、長期債利回りが低下し始める可能性が高くなります。このような動きは、中央銀行の引き締め策に不利に働くでしょう。

したがって、市場が予想する以上の追加利上げは、インフレに大きな影響を与えるどころか、一層の逆イールドを招くだけであり、引き締めサイクルは年内に終焉を迎えると予想するのが無難でしょう。

引き締めサイクルが終わりに近づくにつれ、FRBやECBの高官がバランスシート縮小について語り始めると予想されます。その時点で、長期債利回りの上昇に牽引され、イールドカーブはスティープ化し始めるでしょう。一方、市場が利下げサイクルの開始を予想するため、短期債利回りは下降を始める可能性があります。しかし、利下げ観測が将来さらに強まれば、イールドカーブが一定期間下支えされる可能性もあります。しかし、この道筋は政策当局が利下げ期待を抑えることができるかどうか、また経済がボラティリティの高い時期に耐えられるかどうかに左右されるため、確実性は低いでしょう。この時点で市場がリスク資産から無リスク資産へと向きを変え、数十年にわたるQEが生み出したバブルが崩壊すると予想されます。

利上げサイクルを最初に終了する中央銀行はFRBであり、ECBは実質中銀預金金利をさらに引き上げるために数回の追加利上げが必要になると予想しています。イングランド銀行は来年にかけても利上げを実施する必要があり、他の中央銀行とは一線を画す可能性があります。

インカム追求の投資家に好機

インカムを求める投資家は、中央銀行の政策引き締めがピークに達し、投資開始に適した時期を見極める準備をすべきです。ボラティリティの高い環境に入りつつある現在、デュレーションとクレジットリスクのバランスは極めて重要です。さらに、不確実性が債券市場のボラティリティを高めているため、デュレーションを最小限に抑えることが望ましいでしょう。

中央銀行の政策の影響を最も受けやすい短期債市場には、平均を上回るインカムを獲得できる投資機会が存在します。近い将来、金利がさらに上昇する可能性があるとしても、高格付け債券が提供する利回りはバイ・アンド・ホールド戦略を採る投資家にとっては魅力的です。満期が1年から3年の投資適格社債の米国債に対するスプレッドは62bpsで、平均利回りは5.04%です。ブルームバーグ米国総合債券インデックスによると、これは短期投資適格社債の利回りとしては2007年以来の高さです。さらに目立つのは、2007年以降今日までの満期1年から3年の投資適格社債の平均利回りが1.8%だったことです。

同様に、満期が1年から3年のユーロ建て高格付け社債の利回りは4.43%と、2011年の欧州ソブリン危機以来最も高く、過去15年間の平均を280bps上回っています。

英国の社債利回りは、米国や欧州よりもはるかに高い水準にあります。バイ・アンド・ホールド戦略投資家にとって、日銀の金融引き締め策は脅威ではないかもしれませんが、英国の信用リスクは、インフレと将来の金融政策課題をめぐる不確実性により、先進国のどこよりも高いことに注意する必要があります。従って、英社債については、銘柄選択がより重要になります。

 
出所ブルームバーグ・バークレイズ・インデックス、サクソ・グループ.

魅力的なリターンを提供するのは社債だけではない

最近の国債発行は、社債や株式に代わる無リスク資産に投資機会があることを示しています。英国債管理局(DMO)は6月、クーポン4.5%、利回り4.932%の5年債(GB00BMF9LG83)を発行しました。これは5年債としては2012年以来の高クーポン、2008年以来の高利回りです。同様に、米国財務省は6月に、クーポンが4.25%の2年債(US91282CHD65)を発行しました。また、4月に発行されたドイツ国債(DE000BU3Z005)のクーポンは2.3%でした。数年前まではゼロクーポン債が発行されていたことを考えると、驚異的なことです。

高格付け社債は投資機会を提供している一方で、ジャンク債は低成長に対して脆弱 ― 出所:ブルームバーグ、サクソバンク

人口知能と債券市場:大幅なデフレ

AI経済では、生産性の向上と雇用の移動が所得格差を悪化させます。政府が教育対策と社会的セーフティ・ネットの構築に着手するため、財政赤字は拡大することになります。失業率が上昇し、インフレ率が低下すると、金融政策は緩和的になり、マイナス金利が常態化する可能性もあります。しかし、新体制はインフレ率の変動幅を拡大させます。それを避けるため、政策当局はAIを規制し、実体経済を破壊しないよう、選択的なAI利用へと導き、経済効果を緩やかなものとするでしょう。

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