AI(人工知能):好材料、悪材料、あるいはバブルか AI(人工知能):好材料、悪材料、あるいはバブルか AI(人工知能):好材料、悪材料、あるいはバブルか

AI(人工知能):好材料、悪材料、あるいはバブルか

スティーン・ヤコブセン

最高投資責任者(CIO, Saxo Bank A/S)

サマリー:  どの可能性がより高いか? 1)AI銘柄の続伸 2)金利の高止まり 3)深刻な景気後退


「不況とは、経済がダイエットをする時期のことである」 ― 経済学者、ポール・サミュエルソン

通常の景気サイクルでは、高インフレ、労働市場の逼迫、緩和的な金融情勢といった私たちが現在直面している状況に対して、中央銀行は金利を引き上げます。中央銀行の金融引き締め策は、景気を冷やし、過熱を抑え景気後退の深刻化を回避することを意図しています。しかし、2008年の金融危機以降、中央銀行は景気後退の引き金を引くことを懸念するあまり金融引き締めに及び腰で、景気を真に冷え込ませる水準にまで金利を引き上げることに非常に神経質になっています。

市場は、米連邦準備理事会(FRB)が500ベーシスポイント(bps)の利上げを行い十分な成果を上げたと考えています。ところが、現実には、ほとんどの景気サイクルにおいて、経済活動を十分に減速させ、インフレと労働市場の逼迫という二つの圧力を取り除くためには、フェデラルファンド(FF)金利は少なくとも名目GDPに匹敵する水準にまで引き上げられる必要があります。市場は、米連邦準備理事会(FRB)が500ベーシスポイント(bps)の利上げを行い十分な成果を上げたと考えています。ところが、現実には、ほとんどの景気サイクルにおいて、経済活動を十分に減速させ、インフレと労働市場の逼迫という二つの圧力を取り除くためには、フェデラルファンド(FF)金利は少なくとも名目GDPに匹敵する水準にまで引き上げられる必要があります。第1四半期の統計に基づけば、米国の名目GDP成長率は前年同期比7.2%であり、FRBの政策は引き締めではなく、せいぜい中立であることを示唆しています。

物価の安定と完全雇用という中央銀行の二重の使命は、景気後退に陥らないこと、あるいは、冒頭に示したサミュエルソンの言葉を借りるならば、「ダイエットはなし!」という最優先事項に取って代わられたように思われます。

新型コロナ感染症のパンデミック(世界的大流行)が収束に向かう中、多くの人は経済が正常な軌道に戻りつつあると考えています。低金利が成長を支え続け、「ソフトランディング(軟着陸)」が可能だと信じています。しかし、この見方は甘いと言わざるを得ません。現在、経済は過剰債務に喘いでおり、資産バリュエーションは史上最高水準にあります。このような環境下で「ソフトランディング」に成功する可能性は極めて低く、経済概念では、それが実現するのは極めて稀なケースです。

世界経済は現在、ダムで堰き止められた川のような状態にあります。この場合のダムとは、コロナパンデミック、サプライチェーンの混乱、ウクライナ紛争など、経済成長を妨げてきたさまざまな要因を指します。

これらの阻害要因が解消され始めると、ダムは決壊し始め、川はより自由に流れるようになるでしょう。これは、信用収縮や住宅危機とともに景気後退が迫っているという一般的なコンセンサスとは逆に、経済成長とインフレの拡張・復活につながるものです。障害物が取り除かれることで、経済全体は深刻な景気後退を免れ、実質GDPベースでも小幅な景気後退にとどまる可能性があります。

つまり、現在の状況が続くとすれば、FRBと米国経済は名目ベースでは予想を上回る成長率に直面することになります。州レベル、企業レベルで十分な潜在需要があり、さらには、気候変動対策への補助金を盛り込んだIRA(インフレ抑制法)や半導体などの科学技術分野に対して広範かつ多額の補助金を投じることを定めたCHIPS・科学法によって雇用は堅調を維持するでしょう。  

十分な引き締め策が採られない環境は株式市場に潜在的なバブルをもたらしました。今年の株式バリュエーションを動かしたのは、シリコンバレー銀行と地方銀行の破綻によるミニ危機、債務上限引き上げ問題、そして生成チャット・アプリケーション(オープンAIのチャットGPTとグーグルのBard)の導入との関連性が高いメガキャップ銘柄と大型株の極端な高バリュエーションです。

最初の2つは10億ドル以上の流動性注入をもたらしました。3つ目は、AI関連銘柄の指数関数的な急伸の原動力となりました。AIをめぐる誇大宣伝が最近の株式市場急騰の主な要因であり、これは新たなiPhoneであるとか、インターネットの導入時に似ているとさえ言われています。AIを非難しているわけではありません。時間の経過とともに、生成AIは生産性を向上させる可能性を秘めていると強く認識しています。しかし、市場は勝者を選ぶことに先走っており、現在のバリュエーションはすでに長期的な将来のリターンを過大に織り込んでいます。

経済の海面は穏やかで、ボラティリティは極めて低い水準にあります。しかし、水面下には強い潮流と逆流が存在し、それは2023年後半を困難なものにすると予想しています。

私たちには市場がいつ、どのように動くのかを予測する能力はありません。しかし、バブルがいつ形成され、指標がシナリオを裏付けているか否かを判断する能力はあります。このバブル、そしてすべてのバブルは、ファンダメンタルズがシナリオの裏付けとならない時に加速するのです。

好材料は深刻な景気後退は起こりそうにないということです。一方、悪材料は金利が高止まりする必要があるということです。世界経済について語るとき、私たちは「音声と映像は一致する」というような単純な考え方はしないのです。

スティーン・ヤコブセン
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