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マーケット・ストラテジスト(Saxo Group)
サマリー: 中国は、経済の本格的な再開に向けて、コロナ規制の解除や不動産セクターに対する支援策、IT業界規制の緩和インターネット企業の規制緩和、主要な貿易相手国との関係改善に乗り出しました。これらの一連の動きは、クレジット・インパルスの上昇局面において、ポジティブなシナジーを実現しつつあります。これらは中国経済に複合的なインパクトをもたらす見通しであり、2023年第1四半期は中国株式市場に一段の上昇をもたらすと同時に、世界のコモディティ市場と経済成長を牽引するでしょう。
昨年の第 3 四半期および第 4 四半期の見通しで述べたように、中国は新たな経済成長の枠組みに向けた転換期に差し掛かっています。過去数十年間続いた中国の経済成長の柱となってきた労働・エネルギー集約型産業や輸出主導型の経済成長モデルからの脱却を図り、高付加価値製品の生産や経済的自立、および総合国力に重点を置いた政策へと舵を切っています。
中国が変革を遂げるまでの道のりは険しいものとなるでしょう。生産年齢人口が減少し、農村出身でスキルの低い労働者も多い中、経済変革を実現することは決して容易いことではありません。世界的なエネルギー価格の高騰や、サプライチェーンの混乱や地政学的緊張を背景とする敵対的外部環境の台頭は、さらなるハードルを生み出しています。また、不動産業界、巨大プラットフォーム企業の規制強化、また、それらのセクターの背後で経済発展の舵取りを担い新たな道筋を示し、共同繁栄を実現と経済力を取り戻すために実業家や既得権益者が競い合う中、成長エンジンを稼働させる上での更なる課題となっています。
昨年の第4四半期に、中国は強い感染力を持つオミクロン変異株の波に襲われ、大きく深い穴にはまり込みました。これは、それまで社会主義法治体系の優位性を象徴する政策として掲げられてきたゼロコロナ戦略を完全に覆すものとなりました。検疫所の設置やPCR検査の費用によって膨れ上がる財政支出に加えて、経済活動の停滞や政府土地売却収入の減速などが地方財政を圧迫し、危機的状況に追い込みました。国民の不満は爆発し、ソーシャルメディアから昨年11月の抗議活動へと発展しました。
中国の経済成長が徐々に途絶える中、政府は経済エンジンの復旧と再生に向けて速やかに政策を転換し、再開へ舵を切りました。中国保健当局は2022年11月11日にゼロコロナ規制のガイドラインを一部緩和し、その後も段階的な緩和を進めた後、2022年12月にゼロコロナ政策を撤廃しました。また、中国人民銀行と銀行保険監督管理委員会(CBIRC)は昨年11月13日、金融機関に対し不動産開発業者の資金調達環境の改善を求める通達を出し、16の措置を導入するよう要請しました。また、不動産開発業者のバランスシートの強化に向けた、一連の追加措置への道筋を示しました。
中国当局は、昨年12月15日~16日に開催された中央経済工作会議で民間企業に対して融和的な政策に転換する方針を明確に示し、2020年からITプラットフォーム企業を悩ませた「資本の無秩序な拡張を阻止」する政策を推し進めたことに言及することなく、民営企業の発展を支援することを約束しました。
2022年12月26日、中国当局は新型コロナ感染症の取扱いを鳥インフルエンザや肝炎、および結核等と同じB分類に引き下げ、2023年1月8日からの国境再開を発表しました。また、今年1月9日には、中国銀行保険監督管理委員会(CBIRC)の 郭樹清主席が「巨大ITプラットホーム企業14社の金融事業の是正は基本的に完了した」とコメントしています。
つまり、中国当局は昨年12月からの約2ヶ月間にわたり、経済再建に向けてコロナや不動産セクターやITプラットフォーム企業に関する政策の巻き戻しを推し進めてきました。政策転換の規模やスピードは、経済再開が少なくとも2023年3月かそれ以降に、より段階的に行われると見ていた多くの投資家にとって、予想をはるかに上回るものとなっています。
国内の金融・財政政策の緩和以外にも、一時は対立を深めた米国やその同盟国に対しても、中国は融和姿勢に傾きつつあることを示唆しています。昨年11月15日~16日にインドネシア・バリで開催されたG20サミットで、中国の習近平国家主席とバイデン米大統領は3時間にわたる会談に臨み、両国の関係が改善しつつあることも垣間見せました。
こうした中国の対外姿勢の変化は、12月に中国の新たな外相に就任した秦剛元駐米大使は、米紙ワシントン・ポストに米国との友好関係をアピールするコメントを寄稿したことからも見て取れます。秦剛は駐米大使時代を振り返り、米国民を「寛容で友好的、そして勤勉」であると賞賛し、「地球の将来は、米中関係の安定化にかかっている」と述べています。
また、昨年12月に中国がオーストラリアのペニー・ウォン外相を招聘したことも、諸外国との緊張緩和につながりました。ウォン外相との会談後、中国は2020年に豪州産石炭の輸入を非公式に禁止した後、2年以上ぶりの輸入再開に踏み切りました。
こうした政策の大転換は、わずか2ヶ月の間に急速に推し進められ、2020年から続いた新しい成長パラダイムの方向性を調整し、ゼロコロナ政策によって深い痛手を受けた経済を立て直すという、中国の強い決意を明確に示すものとなりました。当グループは、経済の構造的改革を実現に向けた中国の決意は揺るぎないものであると考えます。最近の政策転換は、あたかも景気後退に陥った経済を復旧するための取り組みのように見受けられます。今回の政策転換はあくまでも短期的なものにとどまる可能性もありますが、中国の信用サイクルの上向き転換と重なることによって、中国経済と株式市場に強力なインパクトを与える可能性があります。
中国のクレジットインパルスは、名目GDPに対する新規与信の伸び率を指数化したもので、与信・GDP比の12ヶ月変化は、実体経済を10~12ヶ月程度先行する傾向があります。図表1は、Bloomberg China Credit Impulse Index(11カ月先行)と中国工業購買担当者景気指数(PMI)の推移を比較したものです。図表を見ると、クレジットインパルスは昨年第4四半期にボトムを付けた後、上昇基調に転じており、2023年の大半を通じて拡大基調を維持する可能性を示しています。
昨年の12月から年初にかけて中国全土に広がった感染拡大の波を経て、投資家の目線は当然ながら、すでにその先にある景気や与信拡大が再度加速する局面へと移っています。第1四半期の中国株式市場は、旺盛な需要を集めるでしょう。
昨年、当グループは中国政府が多額の資金を供給する中、反循環的な政策によって恩恵を受けるインフラ関連のセクターに投資機会を見出しました。2023年については、中国経済が回復期に入る見通しであるため、テクノロジーや国内消費関連の銘柄など、シクリカルな成長株が市場をアウトパフォームすると考えています。Alibaba、Tencent、JD.COM、Pindoudouや、 一般消費財セクターのChina Tourism Group、Duty Free、CR Beer、Jiumaojiu、Li Ningなど、数多くの銘柄が魅力的な投資機会を提供していくと予想されます。
中国の経済成長の再加速の影響はグローバル経済に波及し、世界の商品価格、特に工業用金属やエネルギーを中心に、世界的なコモディティ価格の高騰をもたらすと同時に、世界全体の工業生産高およびGDPに寄与する可能性があります。FRB の研究員によるすばらしい論文が結論付けているように、「中国で起こることは、決して中国だけに留まらない」でしょう。