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FX戦略責任者(Saxo Group)
サマリー:
日本にとってはデフレが長年の課題でしたが、世界の中央銀行が物価上昇圧力との戦いを強化している今年、インフレ目標政策を継続する日本の姿勢は、諸外国の政策とは顕著に異なるものとなっています。
FRBが11月に「一時的な」インフレ論からインフレがより長い間にわたってより高いものになることを認める姿勢に転換し、金融政策引き締めのシグナルを送り始めたことで、その方針転換が確認されました。日銀は現在、同様の圧力にさらされています。4月のコアインフレ率は約7年ぶりに日銀の目標である2%を超えましたが、これは主に商品価格が上昇したことによる供給主導です。黒田東彦総裁は、大幅な賃金上昇を伴わない現在のコストプッシュ型インフレは短期的なものになると繰り返し述べ、賃金上昇圧力が高まらない限り、緩和政策にコミットし続けることを示唆しました。
しかし、厚生労働省が発表した3月の現金給与総額の(速報値1.2パーセントから)2%への上方修正は、賃上げがインフレに連動していることを示しました。ところが、4月の現金給与総額の増加率は1.7パーセントに減速し、実質賃金は依然として1.2%減となりました。さらに、賃金データには不安定な傾向があり、円安で企業収益が圧迫される中で、持続的な賃金上昇の余地は乏しい状況が続いています。
それでも、消費者は、家計が圧迫されていることからインフレの高まりの影響を感じており、それが第3四半期の個人消費の回復は遅れると考えられます。円が対ドルで150円に向かって下落すれば、物価はさらに押し上げられ、固定収入で生活している何百万人もの退職世代にとっては特に悪いニュースになります。インフレに対する国民の不安は、「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」と述べた黒田総裁の発言に対する反発でも明らかになりました。 したがって、仮にイールドカーブ・コントロール政策へのコミットメントが弱まり始めるとすれば日銀の政策計画を形作る可能性が高いインフレ期待が、注目すべき重要な要因となります。日銀の調査によると、日本の家計の1年後の予想物価上昇率の平均は、2008年以来最も高い6.4パーセントになっています。これが上昇し続けた場合には、日本の家計の許容度、ひいては世界的な引き締めの中での日銀の緩和政策が試されることになるでしょう。
日本の当局は何度か口先介入を試みており、その中には効果があったものもあって、円は回復しました。しかし、より最近では、利回り上昇の力が強まり続けているため、影響力は弱まり始めています。日本の財務省、日銀および金融庁の間の三者会合の後、当局は、米ドルに対する急速な円安の進行に関する「強い懸念」を表明しましたが、ほとんど効果はありませんでした。直近では、6月の日銀金融政策決定会合で、為替のレベルに対して同行が注意を払う必要があるという曖昧な声明を含めましたが、投機を防ぐための具体的な水準は示しませんでした。
他のG7諸国と併行した協調介入対応への期待は、米国と世界のインフレの水準に関する懸念を前にして打ち砕かれました。仮に実現したとしても、為替介入の影響は長続きしない可能性が高いでしょう。世界的に利回り上昇が続く中で、日銀がイールドカーブ・コントロール政策を堅持すれば、利回り格差が拡大し続けるというファンダメンタルな枠組みの変化ももたらしません。円安の原因が日銀の政策そのものであることを考えれば、現在の環境での為替介入も信頼性のあるものではありません。
黒田総裁がイールドカーブ・コントロール政策を放棄するかどうかという疑問は、少なくともあと1四半期は消えない可能性が高く、FRBからの7月の追加の75ベーシスポイント(bps)の利上げが近付いてくると、さらに強まる可能性があります。しかし、景気後退懸念が高まる中で世界的に利回りが頂点に達すれば、圧力が緩和されるかもしれません。
何十年間かにわたって量的緩和に非常に慣れているため、FRBと欧州中央銀行(ECB)が方針を変更する兆候はありませんでしたが、それにもかかわらず突然の変更が行われました。日銀もいつかは同様に厳しい道を選ぶと予想することは困難ではなく、それはおそらく突然起こるでしょう。この政策を反転させることには、国内外の金融面の影響を超える多くのものが賭けられていますが、最も重要なことは、黒田総裁の任期満了が近付いていることです(任期は2023年4月まで)。黒田総裁は、イールドカーブ・コントロール政策を採用したけれども失敗したためにその後放棄した人物としてではなく、日本に(賃金)インフレを回復させた人物として記憶されることを望んでいると思われます。
圧力の高まりにもかかわらず方向性を維持すること、あるいは、イールドカーブ・コントロール政策の上限レベルをより小幅にまたはわずかに大幅に変更する方法で政策を手直しすることなど、黒田総裁が選好する可能性のあるその他の選択肢もあります。当面最も可能性の高い結果はこれらの選択肢ですが、ポジションが伸び過ぎていることを考えると、依然として大幅な円の回復の可能性があります。同様な政策の微調整は、2015年~2018年のFRBの引き締めサイクルの後半の2018年に実際に起こっています。日銀は当時、世界的な金利上昇による市場主導の利回り上昇に応じて、10年物の利回り誘導目標の幅を±0.1パーセントから±0.2パーセントに拡大しました。2021年にはこれがさらに±0.25パーセントに拡大されています。こうした政策の微調整を行ったとしても、-0.1%に据え置かれているその基準貸出金利の引き上げまでにはまだ長い距離が日銀に残されるでしょうが、それでも、こうした調整は正常化に向けた重要な一歩になると考えられます。
日本は、何十年にもわたって膨大な対外資産を蓄積してきました。多くの個人投資家と機関投資家が、円で借り入れる一方で追加的な利回りや流動性を求めて外国市場に投資するという円キャリートレードのエクスポージャーを有しています。したがって、黒田日銀総裁が「暴走列車」によってイールドカーブ・コントロール政策へのそのコミットメントを取り下げることを余儀なくされた場合には、伝染リスクが大きいため、世界の金融システムのひどいシステミックな崩壊のリスクをもたらす可能性があります。
国内では、イールドカーブ全体を上方にシフトさせる衝撃的な政策転換は、日銀がそのバランスシートに保有しているJGBに何兆円もの損失をもたらす可能性があります。JGBの急落は、世界経済に連鎖的な影響を及ぼす可能性が高く、世界経済は重要なアンカーを失うことになるでしょう。これが次に、世界全体で借入コストに対する上昇圧力の火付け役になり得ます。円キャリートレードが反転するのに伴って、流動性が日本に還流し、世界の流動性条件の流出になると思われます。日本株は、企業が借入金利の上昇と(現在の想定よりも)高い円によって傷を負う結果として打撃を受けることになり、世界の株式も急落に加わる可能性があります。これは、日本経済がパンデミックから完全に回復する前に粉砕される可能性があることを意味します。円のボラティリティが急上昇し、その影響は世界の外国為替市場にも波及するでしょう。