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チーフ・インベストメント・ストラテジスト
サマリー: 日本の10-12月期GDPは予想よりも小幅な伸びにとどまったものの、今後は中国経済の本格的な再開などが日本経済にとって追い風になるとみられます。また、政府は4月に退任する黒田総裁の後任として、植田和男氏を正式に起用する見通しです。植田氏はイールド・カーブ・コントロール(YCC)の継続に肯定的な姿勢ではないようですが、この15年余り金融政策の現場から離れていたこともあり、金融正常化を急ぐ可能性は低いとみられます。
日本の昨年10-12月期のGDPは予想通り2四半期ぶりのプラス成長となったものの、伸び率は前期比0.2%、年率0.6%(季節調整済)と、いずれも事前予想(同0.5%、2.0%)を下回ったほか、7月-9月期の伸び率も下方修正されるなど引き続き日本経済への先行きに対する懸念が高まっています。10-12月期は中国の経済再開が寄与したものの、インフレ上昇圧力が強まったことや民間設備投資の減速によって相殺される格好となりました。加えて円高とコモディティ価格の下落が拡大する貿易赤字の削減にいくらか寄与したものの、輸出の低迷は日本の貿易収支の見通しに影を落としています。
しかし、欧州がリセッションを回避し、中国の経済再開が楽観的な見通しを支える中で、世界経済の見通しは年初から持ち直しています。また、先日公表された米1月雇用統計が一段と強い内容となったことで、経済がこのままランディングせずに加速し続けるといったシナリオも広がりつつあります。これらは日本の輸出拡大を促すと同時に、中国経済再開に伴うインバウンド需要の回復を背景にサービス部門の伸びに寄与するものと期待できます。
政府が日銀次期総裁に植田和男氏を任命したことは特段のサプライズではありませんでした。また、副総裁に日銀理事の内田真一および前金融庁長官の氷見野良三氏を任命する見通しです。
先週金曜日(2月10日)に最もハト派と見られていた雨宮氏が次期総裁のポストを辞退したことが明らかとなり、市場は日銀の政策がタカ派寄りに傾くリスクをすでに織り込み始めています。しかし、実のところ日銀にはハト派の政策当局者はおらず、黒田総裁と同じレベルでハト派か、ハト派かのどちらかに分けられます。学者出身の植田氏は、約20年前の1998年から2005年まで日銀審議委員を務めた実績がありますが、日銀の金融政策の現場には過去17年間携わっていないこともあり、金融緩和の正常化に動くとするとしても、かなり時間のかかるプロセスになる公算が大きいと考えられます。また、10-12月期の緩慢な成長率は、日銀が緩和政策からの脱却に慎重に臨まねばならないことを示唆しています。植田氏の政策の行方は依然不透明であり、また、世界的な利回り上昇が続く中、円高進行の余地は限られていると考えます。
一方、植田氏の過去のコメントを見る限り、長きにわたるYCC政策や上限金利の段階的な引上げに肯定的ではないことから、様々な憶測が広がっています。また、市場は相次ぐサプライズで混乱を引き起こしてきた黒田総裁の後、総裁交代によって日銀の対話力がどのように変化するかに注目しています。
今後の主な動きとしては、2月24日から衆参両院の議運委が行う正副総裁候補に対する所信聴取が予定されています。市場の焦点は植田氏の経済および金融政策に対する見方に再びシフトするとみられます。新総裁がこれまで日銀と政府が目指してきた2%の物価目標を「可能な限り早急に」ではなく、より長期的な目標に据える考えを示すならば、市場は当面、追加の政策修正が行われるリスクは後退したと受け取るでしょう。その場合、10年前の就任当時に長期国債の大量買い入れを発表した黒田総裁とは対照的なものとなります。
こうした中、今後日本株には明るい材料も多く見受けられます。まず、中国の経済再開に加えて国内のコロナ政策の緩和が進む中、大きなリバウンド消費が期待できます。また、原油価格が横ばいで推移していることが投入物価の上昇圧力が弱まっており、依然として円安傾向にあることが輸出競争力を下支えしています。賃金の上昇圧力が強まる可能性はありますが、それほど大きく加速しないと考えます。実際、日本企業の現金保有は依然として潤沢であり、またYCC政策からの脱却に時間が掛かる見通しが強まる中で、現行の金融環境が継続する可能性は高いでしょう。また、MSCI ジャパンとMSCIワールドのPERを比較した下図でも明らかなとおり、日本株はバリュエーション面で引き続き割安な水準にあります。
しかしながら、米国の賃金が予想以上に加速し、FRBがタカ派姿勢を強める中で利回りが世界的に上昇すれば、円の重しとなり外国人投資家のリターンを押し下げるといったリスクも懸念されます。また、日銀が予想以上に金融引締めを急いだ場合、景気回復の足かせとなり、日本株の下押し圧力は強まるでしょう。