再びタカ派に傾くFRB:米国株は「嵐の前の静けさ」か

再びタカ派に傾くFRB:米国株は「嵐の前の静けさ」か

株式
Peter Garnry

Chief Investment Strategist

サマリー:  パウエル米FRB議長の議会証言を受けて、当グループでは「意図的なリセッション」という言葉がキーワードになっています。パウエル議長は予想を上回るペースで「より高く、より長い」利上げを断行する構えであることを示唆し、FRBがパニックに陥りつつあることが浮き彫りになりました。インフレを取り巻く不透明感は一段と高まっており、政策金利の見通しは、FRBがインフレ対応でパニックを起こし、過度な利上げによってリセッションを引き起こすという「新たな過ち」を犯すシナリオに傾いています。また、S&P 500 指数のバリュエーションは、1994年以降の平均的な水準に照らして非論理的な水準にあり、米国株式のダウサイドリスクは再び高まっています。


FRBのパニックが引き起こす「意図的なリセッション」

7日に行われたパウエル議長の議会証言はタカ派色の強い内容となり、FF金利先物市場が織り込む次回FOMCでの0.5%利上げの確率は30%から70%以上へと一気に高まりました。また、パウエル議長の発言は、FRBがインフレ対応でパニックに陥っており、今後もインフレ率がより高い水準で高止まりすることに警戒を強めているとの印象を与えました。もはやインフレを抑制する唯一の手段は、「意図的なリセッション」によって消費をインフレ低下を促すに足りる水準まで抑え込むことのようです。そもそもインフレが高止まりし、金融政策が後手に回っている原因は各国中銀がインフレ抑制に適したモデルを持ち合わせていないためであるという前提に基づいて考えると、市場は今まさに「パニックに陥るFRBが過度な利上げによってリセッションを引き起こす」というリスクに直面しています。先日のパウエル議長の議会証言と市場の反応についての詳細は、当グループのマーケットストラテジストであるチャル・チャナナのレポートをご参照ください。

パウエル議長のメッセージに最も強く反応したのは米2年国債の利回りで、世界金融危機のきっかけとなったクレジット・ブーム(信用拡張期)が弾ける直前の2006年以来の高水準となる5%超えの水準まで一気に上昇しました。一方、米10年国債利回りの反応は鈍く、4%近辺にとどまり、パウエル議長のタカ派姿勢が鮮明になったことや利上げペースが予想以上に加速する可能性が示唆されたことをより冷静に受け止めたとみられます。しかし、時間が経つにつれて、短期金利への上昇圧力は政府が今のように財政政策によって経済活動を刺激し続けない限り、景気を冷え込ませる要因となることは言うまでもありません。米国では、政府が景気刺激策や低所得世帯向けのインフレ支援策を続けており、財政赤字は昨年7月からさらに3%拡大しています。財政出動は政治的には特に違和感のない対応ですが、それによって財政調整プロセスはより長引くことになるでしょう。なお、S&P 500先物指数は昨日1.6%下落しましたが、今朝は時間外取引ですでに反発しています。
S&P 500 futures | Source: Saxo
US 2-year yield | Source: Bloomberg

米国株式市場に生じた根本的な隔たり

VIX指数が20を依然下回るなど、オプション市場の反応もここ最近の値動きに比べると比較的落ち着いており、パウエル議長のメッセージの影響は市場の隅々にはまだ波及していないようです。株式市場がパニックに陥るFRBの潜在的なリスクを意図的に看過しているのか、あるいは単に見過ごしているのかは定かではありませんが、パウエル議長の新たなメッセージは紛れもなく米国株式がリスクオフに一直線に向かいつつあることを示唆していることを考えれば、後者が正しいと考えざるを得ません。

VIX Index | Source: Bloomberg

S&P 500指数の12ヶ月先予想PERは足元17.5倍と、1994年6月以降の平均値である16倍を上回っています。インフレ動向やウクライナ戦争、中国との緊張関係、政策金利の見通しを巡る不透明感の高まりに鑑みると、投資家が過去の平均的な水準を上回るプレミアムを払うことに積極的になる理由は見当たりません。また、昨年第4四半期に米株式市場に下押し圧力が強まりピークから20%以上下落した局面においてさえ、バークシャー・ハサウェイが非公開企業と上場企業のいずれにおいても買い越しに転じなかったことには留意すべきでしょう。ウォーレン・バフェットやチャーリー・マンガーのように著名な投資家でさえ、時が解決すると考え、辛抱強く投資に臨むスタンスを選択しているのです。

12ヶ月先予想PERの差異を説明するS&P 500指数のバリュエーションモデルを見ると、最も重要な変数は、米ドルのスポットレート、住宅市場指数、消費者信頼感指数、M2成長率、時間当たり賃金、および2年国債利回りであることが分かります。すべての経済指標を考慮した場合、短期的にミスプライスが生じることはありません。しかし、より重要なことは、これらの指標が変動する方向性です。昨日のパウエル議長のメッセージを踏まえると、重要な指標の大半は米国株式市場のPERが低下する方向に向かう公算が大きいと考えられます。米国株は「嵐の前の静けさ」かもしれません。

株式益利回り(黒線はPERの逆数)と当グループが考案した複数の経済指標基づいたモデルで算出した株式益利回り(赤線)
S&P 500 12-month forward earnings yield vs Saxo model | Source: Bloomberg and Saxo

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