2023年は収益横ばいというのは幻想
当社では幾つかの株式レポートで、S&P500種構成企業の1年先利益予想は235.34ドルと、2022年の予想ESP219.38ドルを7%上回っており、過大評価されていると指摘してきました。セルサイドのアナリストはそのリサーチに表れている通り、その性質上、長期的な視点を持ち、新たな情報への反応や取り込みが緩やかであるため、このように予想が乖離することは何ら不思議ではありません。利益の圧縮が進行しているにも関わらず、S&P500の1年先予想EPSが直近のピークからわずか4%しか上昇していないことが全てを物語っています。いずれにせよ、最近、多くのセルサイド金融機関が2023年のS&P500のEPS目標を発表しており、収益は横ばいになるとのコンセンサスが高まっているようです。当社ではこの見通しは非常に甘いと考えています。その理由を以下に説明します。
来年のEPSを220ドルとし、1株当たり予想売上高約1,800ドル(米国の1年間の名目GDP成長と連動する)で割ると、純利益率は12.2%となり、9月の12か月移動平均純利益率とちょうど同水準になります(3番目のグラフ参照)。つまり、S&P 500種構成企業が来年も純利益率を維持できることを示唆しています。なぜこれが全く根拠のない仮定なのかを論じる前に、営業利益率と純利益率との関係に当社が注目していることがいかに重要であるかをご理解いただきたいと思います。
MSCI WorldのX軸に営業利益率の1年間の変化、Y軸にEPSの1年間の変化をとって散布図を見ると、この2つの変数の間に明確な相関があることがわかります。つまり、1年という短い期間で見た場合、収益の変化は営業利益率の変化と強い相関をもっていることがわかります。線形分析に関わる分散の変数は、収益成長率、金利、および実効税率です。2023年の収益を予測することは、本質的には営業利益率が上昇するか、横ばいか、低下するかを予測することに等しいということです。当社では、来年は営業利益率が低下すると考えています。その理由は以下の通りです。
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企業は第3四半期決算において、賃金圧力が特に多いですが、その他、商品・エネルギーコストに関連した利益圧力に言及しています。S&P500種構成銘柄の第3四半期純利益率が11.9%(12か月移動平均より低い)で、低下傾向にあるということは、利益が予想よりも早く低下していることを示唆しています。
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営業利益率、純利益率ともに歴史的な高水準から低下しており、利益は平均回帰するため、それだけでも現在の水準から低下する傾向にあると言えます。
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米国と欧州の賃金上昇率は過去数十年で最も高く、賃金は多くの企業にとって最大のコスト項目であるため、CEOの最大の関心事です。投資家やアナリストは、外れ値を観測するたびに警戒しますが、企業による最近の値上げにより販売数量の伸びが大幅に減少した場合、インフレ環境下で高い賃金上昇率を相殺することは困難です(ホーム・デポがその最近の例として挙げられます)。
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来期のEPSのもう一つのダウンサイドリスクは、名目GDP成長率が2021年の年率平均12.2%から第3四半期には年率6.7%に低下してきているため、収益の伸びが現在の予測よりも低くなる可能性があることです。
上記に加え、金利上昇により資金調達コストが上昇します。今後12か月間の借り換え額は借入残高の20%にすぎないため、それほど大きくはありませんが、それでも営業利益が減少し、純利益率およびEPSに影響を与えることになるでしょう。2023年の営業利益率に関する当社の予想が正しければ、S&P500への影響は、株式のリスクプレミアム(PER)、売上高の伸び、実際の純利益率によって変わってきます。最近の株式レポート「
投資家は平均的な株式市場を望むべきではない」では、これらの変数に対するS&P500の感応度について述べています。