2023年の収益見通しおよび変化するテスラリスク

株式
Peter Garnry

Chief Investment Strategist

サマリー:  コンセンサスでは、来年の収益が横ばいになるとの見方が強まっていますが、これは純利益率が過去最高水準に近く、大きな圧力がかかっていないことを示唆しています。これは、各社CEOが第3四半期の決算発表で、賃金圧力と利益圧力が収益への最大の脅威としているのとは対照的です。第3四半期決算の結果は、利益の圧縮が加速していることを示唆しており、営業利益率の変化は1年間の利益の変化と直接関係しています。当社の基本シナリオは、来年は収益成長がマイナスとなり、株式投資家にとって再び困難な年になるというものです。


2023年は収益横ばいというのは幻想

当社では幾つかの株式レポートで、S&P500種構成企業の1年先利益予想は235.34ドルと、2022年の予想ESP219.38ドルを7%上回っており、過大評価されていると指摘してきました。セルサイドのアナリストはそのリサーチに表れている通り、その性質上、長期的な視点を持ち、新たな情報への反応や取り込みが緩やかであるため、このように予想が乖離することは何ら不思議ではありません。利益の圧縮が進行しているにも関わらず、S&P500の1年先予想EPSが直近のピークからわずか4%しか上昇していないことが全てを物語っています。いずれにせよ、最近、多くのセルサイド金融機関が2023年のS&P500のEPS目標を発表しており、収益は横ばいになるとのコンセンサスが高まっているようです。当社ではこの見通しは非常に甘いと考えています。その理由を以下に説明します。

来年のEPSを220ドルとし、1株当たり予想売上高約1,800ドル(米国の1年間の名目GDP成長と連動する)で割ると、純利益率は12.2%となり、9月の12か月移動平均純利益率とちょうど同水準になります(3番目のグラフ参照)。つまり、S&P 500種構成企業が来年も純利益率を維持できることを示唆しています。なぜこれが全く根拠のない仮定なのかを論じる前に、営業利益率と純利益率との関係に当社が注目していることがいかに重要であるかをご理解いただきたいと思います。

MSCI WorldのX軸に営業利益率の1年間の変化、Y軸にEPSの1年間の変化をとって散布図を見ると、この2つの変数の間に明確な相関があることがわかります。つまり、1年という短い期間で見た場合、収益の変化は営業利益率の変化と強い相関をもっていることがわかります。線形分析に関わる分散の変数は、収益成長率、金利、および実効税率です。2023年の収益を予測することは、本質的には営業利益率が上昇するか、横ばいか、低下するかを予測することに等しいということです。当社では、来年は営業利益率が低下すると考えています。その理由は以下の通りです。

企業は第3四半期決算において、賃金圧力が特に多いですが、その他、商品・エネルギーコストに関連した利益圧力に言及しています。S&P500種構成銘柄の第3四半期純利益率が11.9%(12か月移動平均より低い)で、低下傾向にあるということは、利益が予想よりも早く低下していることを示唆しています。

営業利益率、純利益率ともに歴史的な高水準から低下しており、利益は平均回帰するため、それだけでも現在の水準から低下する傾向にあると言えます。

米国と欧州の賃金上昇率は過去数十年で最も高く、賃金は多くの企業にとって最大のコスト項目であるため、CEOの最大の関心事です。投資家やアナリストは、外れ値を観測するたびに警戒しますが、企業による最近の値上げにより販売数量の伸びが大幅に減少した場合、インフレ環境下で高い賃金上昇率を相殺することは困難です(ホーム・デポがその最近の例として挙げられます)。

来期のEPSのもう一つのダウンサイドリスクは、名目GDP成長率が2021年の年率平均12.2%から第3四半期には年率6.7%に低下してきているため、収益の伸びが現在の予測よりも低くなる可能性があることです。

上記に加え、金利上昇により資金調達コストが上昇します。今後12か月間の借り換え額は借入残高の20%にすぎないため、それほど大きくはありませんが、それでも営業利益が減少し、純利益率およびEPSに影響を与えることになるでしょう。2023年の営業利益率に関する当社の予想が正しければ、S&P500への影響は、株式のリスクプレミアム(PER)、売上高の伸び、実際の純利益率によって変わってきます。最近の株式レポート「投資家は平均的な株式市場を望むべきではない」では、これらの変数に対するS&P500の感応度について述べています。

テスラへの集中は米国株にドミノ効果をもたらす可能性

2021年初頭に、テスラ株、暗号資産、アーク・イノベーションETFを保有する投資家の間でポジションが大きく重なっていることを説明した株式レポート(こちらこちら)を幾度か書きました。この「リスククラスター」のもうひとつの共通する運命的な結びつきは、これらの商品の共通の投資家が、リスク許容度の極めて高い若年層であるということです。2021年初頭から、まずアーク・イノベーションETFが最高値を付け、その後暗号資産とテスラが2021年末に最高値を付けました。今年は暗号資産が暴落し、最近の暗号取引所FTXの倒産と不正行為により、暗号資産のリスクと下落の動きが増幅されています。テスラは、社会現象を引き起こしているイーロン・マスク氏がテスラの成長シナリオを維持しているのに従って、現状を維持しています。

しかし、最近の米国での自動車の大量リコールや、中国の経済活性化の難しさから、投資家は成長の先行きを懸念しています。電池の供給制約と全般的な商品価格の高騰、エネルギーコストの高騰、チップ不足がテスラの生産を制約しています。さらに、イーロン・マスク氏がツイッターを買収したことにより、彼は同社の再編という大きな課題を抱えることになりました。彼は、ツイッターを、広告収入からキャッシュフローを得るビジネスからキャッシュを消費するプラットフォームに転換するとし、ソーシャルメディア企業の存亡の危機が高まっています。投資家は、ツイッターでのマスク氏の行動や優先順位が彼の集中力を鈍らせ、彼のブランドを棄損しているかもしれないと心配し始めており、それは最終的にテスラブランドにも波及する可能性があるのです。テスラ株は昨日の取引で7%下落しましたが、テスラは多くの個人投資家の取引口座における大きなポジションであるため、市場の明確なリスクとなっています。
Tesla share price | Source: Saxo

口座開設は無料。オンラインで簡単にお申し込みいただけます。 

最短3分で入力完了!

【ご留意事項】

■当資料は、サクソバンクグループのアナリストによるマーケット分析レポートの転載、もしくは外部のアナリストからの寄稿となっております。
■当資料は、いずれも情報提供のみを目的としたものであり、特定の取引の勧誘を目的としたものではありません。
■当資料は、作成時点において執筆者またはサクソバンク証券(以下「当社」)が信頼できると判断した情報やデータ等に基づいていますが、執筆者または当社はその正確性、完全性等を保証するものではありません。当資料の利用により生じた損害についても、執筆者または当社は責任を負いません。 
■当資料で示される意見は執筆者によるものであり、当社の考えを反映するものではありません。また、これら意見はあくまでも参考として申し述べたものであり、推奨を意味せず、また、いずれの記述も将来の傾向、数値、投資成果等を示唆もしくは保証するものではありません。 
■当資料に記載の情報は作成時点のものであり、予告なしに変更することがあります。 
■当資料の全部か一部かを問わず、無断での転用、複製、再配信、ウェブサイトへの投稿や掲載等を行うことはできません。
■上記のほか、当資料の閲覧・ご利用に関する「免責事項」をご確認ください。 
■当社が提供するデリバティブ取引は、為替相場、有価証券の価格や指数、貴金属その他の商品相場または金利等の変動によって損失を生じるおそれがあります。また、お預けいただく証拠金額に比べてお取引可能な金額が大きいため、その損失は、預託された証拠金の額を上回る恐れがあります。
■当社が提供する外国証券取引は、買付け時に比べて売付け時に、価格が下がっている場合や円高になっている場合に損失が発生します。手数料については、「取引金額×一定料率」又は「取引数量×一定金額」で求めた手数料が一回の取引ごとに課金されます。ただし手数料の合計額が当社の定める最低手数料に満たない場合は、手数料に代えて最低手数料を徴収させていただきます。また取引所手数料等の追加費用がかかる場合があります。 
■取引にあたっては、取引説明書および取引約款を熟読し十分に仕組みやリスクをご理解いただき、発注前に取引画面で手数料等を確認のうえ、ご自身の判断にてお取引をお願いいたします。 
■当社でのお取引にかかるリスクやコスト等については、 こちらも必ずご確認ください。

サクソバンク証券株式会社
Saxo Bank Securities Ltd.
Izumi Garden Tower 36F
1-6-1 Roppongi Minato-ku
Tokyo 106-6036
〒106-6036 東京都港区六本木1-6-1
泉ガーデンタワー36F

お問い合わせ

国・地域を選択

日本
日本

【重要事項及びリスク開示】

■外国為替証拠金取引は各通貨の価格を、貴金属証拠金取引は各貴金属の価格を指標とし、それらの変動に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、売買の状況によってはスワップポイントの支払いが発生したり、通貨の金利や貴金属のリースレート等の変動によりスワップポイントが受取りから支払いに転じたりすることがあります。
■外国為替オプション取引は外国為替証拠金取引の通貨を、貴金属オプション取引は貴金属証拠金取引の貴金属を原資産とし、原資産の値動きやその変動率に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、オプションの価値は時間の経過により減少します。また、オプションの売り側は権利行使に応える義務があります。
■株価指数CFD取引は株価指数や株価指数を対象としたETFを、個別株CFD取引は個別株や個別株関連のETFを、債券CFD取引は債券や債券を対象としたETFを、その他証券CFD取引はその他の外国上場株式関連ETF等を、商品CFD取引は商品先物取引をそれぞれ原資産とし、それらの価格の変動に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、建玉や売買の状況によってはオーバーナイト金利、キャリングコスト、借入金利、配当等調整金の支払いが発生したり、通貨の金利の変動によりオーバーナイト金利が受取りから支払いに転じたりすることがあります。
■上記全ての取引においては、当社が提示する売価格と買価格にスプレッド(価格差)があり、お客様から見た買価格のほうが売価格よりも高くなります。
■先物取引は各原資産の価格を指標とし、それらの変動に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。
■外国株式・指数オプション取引は、対象とする有価証券の市場価格や対象となる指数、あるいは当該外国上場株式の裏付けとなっている資産の価格や評価額の変動、指数の数値等に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、対象とする有価証券の発行者の信用状況の変化等により、損失が発生することがあります。なお、オプションを行使できる期間には制限がありますので留意が必要です。さらに、外国株式・指数オプションは、市場価格が現実の市場価格等に応じて変動するため、その変動率は現実の市場価格等に比べて大きくなる傾向があり、意図したとおりに取引ができず、場合によっては大きな損失が発生する可能性があります。また取引対象となる外国上場株式が上場廃止となる場合には、当該外国株式オプションも上場廃止され、また、外国株式オプションの取引状況を勘案して当該外国株式オプションが上場廃止とされる場合があり、その際、取引最終日及び権利行使日が繰り上げられることや権利行使の機会が失われることがあります。対象外国上場株式が売買停止となった場合や対象外国上場株式の発行者が、人的分割を行う場合等には、当該外国株式オプションも取引停止となることがあります。また買方特有のリスクとして、外国株式・指数オプションは期限商品であり、買方がアウトオブザマネーの状態で、取引最終日までに転売を行わず、また権利行使日に権利行使を行わない場合には、権利は消滅します。この場合、買方は投資資金の全額を失うことになります。また売方特有のリスクとして、売方は証拠金を上回る取引を行うこととなり、市場価格が予想とは反対の方向に変化したときの損失が限定されていません。売方は、外国株式・指数オプション取引が成立したときは、証拠金を差し入れ又は預託しなければなりません。その後、相場の変動や代用外国上場株式の値下がりにより不足額が発生した場合には、証拠金の追加差入れ又は追加預託が必要となります。また売方は、権利行使の割当てを受けたときには、必ずこれに応じなければなりません。すなわち、売方は、権利行使の割当てを受けた際には、コールオプションの場合には売付外国上場株式が、プットオプションの場合は買付代金が必要となりますから、特に注意が必要です。さらに売方は、所定の時限までに証拠金を差し入れ又は預託しない場合や、約諾書の定めによりその他の期限の利益の喪失の事由に該当した場合には、損失を被った状態で建玉の一部又は全部を決済される場合もあります。さらにこの場合、その決済で生じた損失についても責任を負うことになります。外国株式・指数オプション取引(売建て)を行うにあたっては、所定の証拠金を担保として差し入れ又は預託していただきます。証拠金率は各銘柄のリスクによって異なりますので、発注前の取引画面でご確認ください。
■上記全ての取引(ただしオプション取引の買いを除く)は、取引証拠金を事前に当社に預託する必要があります。取引証拠金の最低必要額は取引可能な額に比べて小さいため、損失が取引証拠金の額を上回る可能性があります。この最低必要額は、取引金額に対する一定の比率で設定されおり、口座の区分(個人または法人)や個別の銘柄によって異なりますが、平常時は銘柄の流動性や価格変動性あるいは法令等若しくは当社が加入する自主規制団体の規則等に基づいて当社が決定し、必要に応じて変更します。ただし法人が行う外国為替証拠金取引については、金融商品取引業等に関する内閣府令第117条第27項第1号に規定される定量的計算モデルを用いて通貨ペアごとに算出(1週間に1度)した比率を下回らないように当社が設定します。
■上記全ての取引(ただしオプション取引の買いを除く)は、損失が無制限に拡大することを防止するために自動ロスカット(自動ストップロス)が適用されますが、これによって確定した損失についてもお客様の負担となります。また自動ロスカットは決済価格を保証するものではなく、損失がお預かりしている取引証拠金の額を超える可能性があります。
■外国証券売買取引は、買付け時に比べて売付け時に、価格が下がっている場合や円高になっている場合に損失が発生します。
■取引にあたっては、契約締結前交付書面(取引説明書)および取引約款を熟読し十分に仕組みやリスクをご理解いただき、発注前に取引画面で手数料等を確認のうえ、ご自身の判断にてお取引をお願いいたします。

サクソバンク証券株式会社

金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第239号、商品先物取引業者
第一種金融取引業、第二種金融商品取引業
加入協会/日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、日本投資者保護基金、日本商品先物取引協会
手数料:各商品の取引手数料についてはサクソバンク証券ウェブサイトの「取引手数料」ページや、契約締結前交付書面(取引説明書)、取引約款等をご確認ください。