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コモディティ戦略責任者(Saxo Group)
サマリー: 波乱に満ちた2022年を終えて、コモディティ市場は今年に入り好調なスタートを切っています。今年は中国の政策がパフォーマンスを左右する展開となりそうです。
「慎重かつディフェンシブに臨む」 これは、ごくわずかの例外を除けば年初のコモディティセクターの値動きを説明するのに最もふさわしい言葉でしょう。昨年はブルームバーグ商品指数が年初の3カ月間で38%上昇し、第1四半期としては過去最高の上昇率を記録しました。しかし、その後は概ね下落基調を辿り、最終的には16%の上昇で一年を締めくくりました。とはいえ、2022年はドル高進行や下半期に急速に拡大したリセッション懸念などを踏まえると、それでも十分なリターンをもたらしたと言えるでしょう。2023年は、昨年のように波乱に満ちた年とならないことを願っています。
2023年の経済成長を牽引する重要なマクロ経済イベントは、すでに発生していると考えます。中国政府が、失敗に終わったゼロコロナ政策から、一転して経済の再開に向けて方向転換を図ったことは、エネルギーや金属、農産物といった主要コモディティの需給逼迫が続く中、今後の商品需要に大きな影響を与えるでしょう。さらに、米国のインフレ鈍化を背景とする持続的なドル安進行によってFRBの利上げペース減速のシナリオの見方が強まっており、市場のセンチメントを下支えするとみられます。
さらに、今後予想されるリセッションは起こらないか、あるいは予想以上に浅いものにとどまる可能性が高まったことを受けて、金融や現物取引のトレーダーの間で需要拡大を見越したポジションや在庫水準を構築する動きが加速するかもしれません。このような展開となった場合、特にエネルギーや鉱業に影響を及ぼす構造的な投資不足といテーマが新たに材料視され、価格を下支えするものと予想されます。
年初に見られた金や銅を中心とするコモディティ市場の力強い上昇は、2023年の相場が当グループの見通しに沿った展開となる可能性を示唆しています。ただし、方向感としては正しいものの、タイミングに若干のずれが生じているため、一段の上昇を遂げる前に調整入りするリスクが目先で高まっていると考えられます。また、中国やアジアの一部の地域では、旧正月の休暇が明けるまで経済活動の本格的な回復が見込めないことから、足元の上昇が一服する可能性もあるでしょう。ただし、第2四半期以降はモメンタムを取り戻し、再び上昇基調を辿るものと予想します。
これらの点を踏まえると、コモディティ市場の上昇はまだ道半ばであると考えます。また、需要の伸びは今後鈍化する見通しであるものの、主要なコモディティの需給は向こう数年間にわたって逼迫する傾向が続く可能性が高いと予想します。コモディティ市場は昨年に続いて今年もポジティブな展開となる見通しであり、ブルームバーグ商品指数トータルリターンは10%上昇すると予想します。
コモディティに対してポジティブである主な理由の一つには、グリーントランスフォーメーションならびにその実現に向けた各国政府の資金供給を背景に、銅やアルミニウム、リチウムなどの工業用金属に強気な見通しを維持していることが挙げられます。加えて、新たな地政学的環境は、欧州の防衛産業の拡大を強力に下支えするしょう。次の景気サイクルでは欧州全体の防衛費のGDP比は倍に拡大する見通しであり、防衛産業は年率20%近いペースで二桁台の成長を遂げるものと予想されます。
銅やアルミを筆頭に、工業用金属はすでに年初から好調なスタートを切っています。その背景には、世界最大の消費国である中国が2003年(WTO加盟後)、2009年(世界金融危機後)、そして2016年(人民元切り下げ)と同様に大規模な景気対策に乗り出すとの憶測が広がっていることがあります。これは、習近平主席のゼロコロナ規制が失策に終わった後、経済的な打撃から本格的に立ち直る必要があるためです。こうした楽観的な見方は、インフレ鈍化に伴うFRBの利上げペース減速期待の高まり背景とするドル安進行と相まって一層強まっています。銅が年初に大きく上昇した主な要因は、テクニカルや投機筋のトレーダーが数カ月先の中国の需要回復を見越したポジションを構築したことです。このため、最初の上昇が一服した後は、リターンを維持するには努力を要するでしょう。また、2023年は複数のプロジェクトの稼働によって供給拡大が見込まれていることを踏まえると、足元の上昇相場を支えるためには、現物需要の増加が必要となります。全体的な見通しとしては、銅は今後数ヶ月間にわたって3.75ドルから4.75ドルのレンジに落ち着いた後、再び一段の上昇に向かい、今年下半期には史上最高値を更新するものと予想します。
ドル安を背景とする昨年末の良好なモメンタムを引き継ぎ、2023年に金は上値を切り上げて好調なスタートを切りました。銀はこの流れに出遅れたものの、銅に対して強気な見方を維持していることもあり、今年、銀は金をアウトパフォームする可能性があるでしょう。昨年逆風となったドル高、金利上昇が反転することが支援材料となり、2022年から相場は回復に向かうものと予想します。
加えて、中央銀行の旺盛な買い需要が、引き続き金の底値を支えると見ています。昨年の第1四半期から第3四半期に記録した673トンの買い越し(出典:ワールド ゴールド カウンシル)には及ばないまでも、各国中銀の金需要は、OPECプラスによる原油の供給統制と同様に、市場に一定のフロアを形成する可能性があります。こうした需要の一部は、ドルに対するエクスポージャーの削減を急ぐ一部の中央銀行から生じています。このようなドル離れと金に対する需要が総じて強いことを背景に、今年も各国政府の金購入は堅調に推移するものと予想されます。
また、今年は金の投資環境がさらに改善する見通しであるため、昨年120トン減少した金ETFの保有量は今年、再び増加に転じると予想します。ただ、長期投資家に選好されやすい金ETFは昨年11月以降に大きく上昇したものの、まだ本格的な復活は遂げておらず、保有残高の合計は2年ぶりの低水準で推移しています。また、金ETFの需要は、中央銀行がインフレ目標を達成すると投資家が確信している時に低迷する傾向にあるため、インフレが低下しつつある今、その確信はそれほど揺らいでいないとみられます。
しかし、当グループの予想では、インフレ率は向こう6ヶ月間にわたって低下を続けた後、主に賃金上昇圧力や中国の景気刺激策を背景とする主要コモディティ(エネルギーや金属等)の需要拡大と価格上昇によって、再び加速し始めると考えます。こうした見通しを踏まえ、金は第1四半期の大半にわたり、1,800ドルから1,950ドルのレンジで推移した後、いずれは2,100ドルを超える水準に向けて上昇し、高値を更新するものと予想します。また、これが実現した場合は、銀は2021年前半に一時的に試した30ドル/オンスの水準に回復する可能性が期待できます。
原油
国際エネルギー機関(IEA)の予測では、2023年の原油需要は前年比日量190万バレル増と、年間ベースで過去最高となる見通しです。中国経済がロックダウンから成長重視への政策転換によって力強い回復を目指す中、経済再開後の陸上移動の増加に加えて、パンデミック後の旅行需要のリバウンドに伴う航空機燃料の消費拡大などが価格を下支えする主な要因となる見通しです。
原油価格は、需要拡大に対応する供給側の生産能力や方針に左右されるでしょう。これに関しては、中国の需要が増加する中でロシア産原油や燃料油の禁輸が継続し、OPECが増産に消極的になれば、今年後半に原油価格の上昇を支える上で、いくつかの課題が生じるものと予想されます。
当グループの第1四半期予想のテーマである「モデルの崩壊」は、過去1年間にエネルギーセクター全体が実際に直面してきた課題でもあります。ロシアが主権国家を抑圧し、欧米諸国がプーチンのウクライナへの軍事侵攻に抵抗している現状は、悲しいことに未だに解決されず、工業用金属や農作物からガス、燃料製品、そして原油に至るまで、あらゆるコモディティの供給を混乱させ、価格高騰をもたらしています。また、昨年12月にEUとG7諸国が制裁措置として導入したロシア産原油に対する上限価格の設定よって段階的な価格設定が施されており、品質格差や輸送コスト以外の価格変動要因が生じています。ロシア産海上輸送原油の輸入量はこれまでの水準で持ちこたえているものの、2月にはEUが石油製品を含むロシア産原油の輸入を全面禁止とするため、今後数カ月間で原油を取り巻く状況は一層厳しさを増すものとみられます。
こうした一連の動きを受けて、ロシアは制裁に関与していない買い手、主に中国とインドに対して大きく値引きして販売せざるを得なくなっています。また、この二次的な影響として、原油精製処理量が国内の需要を上回る中国で精製マージンが堅調に推移しています。中国経済が力強い回復を遂げるとすれば、中国からの石油製品の輸出が世界的に増加する可能性があります。こうした中国からの石油製品の供給は、米国や石油精製で新たに台頭した中東諸国とともに、ロシアからの供給が途絶えた欧州の需要を補うことになりそうです。
第1四半期の原油を取り巻く動向は、主に中国の需要回復のスピードに左右されるでしょう。当グループは、季節的な要因から需要が弱含む第1四半期よりも、今年下半期以降により力強い回復を見込んでいます。これを踏まえ、ブレント原油は今四半期の大半を通じてレンジの下限となる80ドル近辺で取引される予想します。ただし、その後はリセッション入りのリスクが後退する中、中国経済の加速や対ロシア制裁の厳格化などを支えに、年後半は回復に向かうものと予想します。
一方、OPECは、OPECプラスと共に市場シェアを確保していることを踏まえると、価格統制を一層強めるようになっています。その結果、市場にはフロア(下限価格)が形成されており、今後の需要の回復に、どのように対処するかが課題となっています。特に、欧米のエネルギー企業に対する苛立ちや、各国政府の介入、そして昨年の米政府による戦略石油備蓄(SPR)の放出等を考慮すると、今後もこうした動きは避けられないでしょう。
全体的な見通しとしては、今年もいくつかの変化が引き続き需給両面に影響を及ぼすものとみられます。こうした中、今年も昨年に続いて局所的な流動性の低下や、ファンダメンタルズとは別の要因で市場が変動するといったボラティリティの高い年となる可能性が懸念されます。第1四半期の大半を通してブレント原油は弱含みで推移し、80ドル近辺で取引されると予想します。ただ、その後は世界的な需要回復とそれに伴う供給見通しの不透明感が相まって90米ドル台を回復し、一時的に100ドルを上回る水準まで急騰する場面もあり得るでしょう。