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FX戦略責任者(Saxo Group)
サマリー: エネルギーへの注力により、アジア全体の投資マインドが変わる可能性があるでしょうか。
新興国を含むアジアもエネルギー危機に直面しています。新興国へのこれまでの投資における最も切実な課題は、急速な都市化と中産階級の増加が進む中で、人口動態の変化と総需要の増加が起こっていることにまつわるものでした。そうした状況下で、現在、課題となっているのが、数十年にわたる過少投資、ロシアの戦術、欧州等におけるエネルギー安全保障問題の高まりなどに伴い、当面、エネルギーの供給不足が続くとみられることです。
そのため、将来にわたって、エネルギー供給の確保、エネルギーインフラの拡充、電力需要を満たすための新エネルギー源の確保、エネルギー安全保障と燃料分散に向けた投資といった課題が押し寄せることになるでしょう。その中で、停電、産業使用量の制限、補助金の増加、アジア諸国の社会的・政治的不安など、短期的な痛みが生じることは避けられないでしょう。今年初めにはスリランカ危機が発生しましたが、パキスタンとバングラデシュも同様のリスクを抱えています。
液化天然ガス(LNG)は、石炭などの化石燃料から再生可能エネルギー源への移行期間中の「過渡的代替燃料」としてアジアで多く使用されています。LNGはまた、フィリピン、バングラデシュ、タイといった国々で、急速に減少している国産ガスの最も便利な代替品のひとつともなっています。しかし、ロシアからのガス供給が途絶えたいま、欧州はLNGの確保でアジアと直接争っています。欧州のLNG需要は今年、25MT増加する可能性があると予測されています。そのため、LNG船は、日本やアジアから、より好条件の価格で取引される欧州に向けられ始めています。つまりアジアの一部地域は、今年だけではなく欧州が他のエネルギー源を確保するまで今後数年間、LNGの供給を失うことになります。また、LNGの安定供給を維持するために、経済的に余力のある国はより高い価格を支払わなければならなくなるでしょう。
日本もエネルギー危機と無縁ではありません。2011年、大規模な地震と津波により福島第一原子力発電所のメルトダウンが発生し、その後10年間にわたって原子力発電が停止されました。それ以来、日本では政府による大規模な介入によらず、企業や家庭レベルでの自主的な省エネの取り組みが進められてきました。
しかし、過去数か月の猛暑と原油・ガス価格の高騰により、電気料金が過去最高水準まで上昇し、日本のエネルギー安全保障が再び重要課題となっています。日本は世界第5位の石油消費国、世界第6位のガス消費国であり、エネルギーの輸入に大きく依存しています。日本の国内エネルギー消費のほぼ90%は、輸入された石油とガスとなっています。
さらに、ロシアがサハリン2の石油・ガス複合開発事業を国有化したショックと、20年ぶりの円安が、日本のエネルギー問題を深刻化させています。LNGに過度に依存しながらも、国内の余剰分を欧州に振り向けるとした政府の決定も今後に禍根を残しかねません。当面、日本にとって唯一の有効な解決策は、個人と企業レベルの再度の需要破壊です。政府は大口需要家に対して消費制限を設ける必要があるかもしれませんが、消費者はそれによる影響を確実に受けることになるでしょう。しかし、それによって原発再稼働などの困難な決断が比較的容易になるかもしれません。
岸田首相は、電力市場の需給ギャップに対処するため、原子力発電所の再稼働を進めようとしています。岸田政権は、再稼働の実績がある10基に加え、7基の追加再稼働を目指しています。これは、他のアジア諸国だけでなく世界に対し、原子力は、化石燃料への依存度を低減する代替資源となるうえ、温室効果ガス排出を削減し、エネルギー安全保障の向上を図りつつ、環境負荷の小さい手段として利用可能と認識していることを示しています。こうした方針転換に伴い、関西電力(9503)のように原子力発電の比率を高めている電力会社が、有力な投資対象となる可能性があります。日本が原子力政策を追求するには多くの障壁が存在するとみられ、石炭の利用も検討されるでしょう。日本は、「ネットゼロ」アジェンダの「ネット」に明確な焦点を当て、発電所や産業プロセスからの排出を相殺または利用し、さらには大気から直接CO2を抽出することによって、脱炭素化が困難なセクターで一部の化石燃料の利用を継続できるようにする、炭素回収・利用・貯蔵(CCUS)技術を推進しています。このことは、CCUS技術における潜在的な機会をもたらしますが、同時に、日本がネットゼロを推進しているにも関わらず、化石燃料を使用し続けることを示唆しています。
アジアの新興国の多くにとって石炭火力発電は、需要規模が大きく、地域内での化石燃料や関連インフラの入手が容易であることから、最も容易な選択肢のひとつでした。国内での石炭供給が低コストの国にとってはこの選択肢はより重要です。中国、インド、インドネシア、ベトナムでは最近、石炭火力発電が増加しています。
また、代替エネルギー源の開発も進んでいます。たとえばシンガポールは、エネルギー源の多様化を図るため、地熱の潜在能力を確保することに注力しています。インドネシア、フィリピン、ニュージーランドにも地熱発電における未利用地熱資源があり、エネルギー危機が深刻化する中で、さらなる開発が進む可能性があります。水素と水力発電も引き続きこの地域における重要な課題です。韓国は水素経済において世界でも先進的な位置づけにありますが、中国、日本、マレーシアなどの国も水素推進政策をとっています。政府の既存の見通しによれば、世界の水素需要は2050年までに年間約2億5千万トン(MT)に達すると予想されています。水素経済へのエクスポージャーを提供するETFには、VanEck Hydrogen Economy UCITS (HDR0:xetr)、Global X Hydrogen (HYDR:xnas) 、Direxion Hydrogen (HJEN:arcx) などがあります。
アジアでの原子力導入も、今回の危機で一段と進むでしょう。日本だけでなく、インドや中国といった国も、増大するエネルギー需要に対応するため、原子力技術を受け入れる姿勢を強めています。インドは原子力発電所の数を3倍の合計72基とする計画であり、中国では建設中の18基と計画中の37基に加え、新たに168基の原子炉の建設が提案されており、これは337%の増加に相当します。世界原子力協会のデータによると、アジア全体で35基の原子炉が既に建設中であり、欧州は15基で2位となっています。
要約すると、将来はよりバランスのとれたエネルギー源の分散にかかっているということです。国内での燃料供給が不足しているアジア諸国にとって、エネルギー自給は、中期的には自然エネルギーへのシフトをより大きくより迅速に進めることによってのみ可能となります。しかし、国産燃料を持つ国にとって、不安定な再生可能エネルギー源を信用することは難しく、より現実的なアプローチが必要かもしれません。
インドは石油需要の約8割を輸入に頼っているため、早くからエネルギー危機の影響を受けやすい状況にありました。国際収支危機を免れたのは、ルーブルで支払う非公開の割引価格で、ロシアから石油を輸入し続けたためです。この例は、他の新興国も、エネルギー不足の問題により身動きが取れず、経済維持のための確実な短期的解決策を見いだせないまま、同様の道をたどる可能性があることを示唆するものです。スリランカの危機は、既に多くの周辺国に警鐘を鳴らしています。最近、ミャンマーもロシア産石油製品の購入を開始し、ルーブルで代金を支払う用意があると報道されました。同様に、ロシア政府は今後も、インフレにより大きな打撃を受け燃料供給が不足している小国に買い手を見つけることができるかもしれません。
エネルギーや食料・肥料の輸入をロシアと同様の取引契約に移行する国が増えれば、地域全体で、ドルベースの取引協定からの移行が大きく進む可能性があります。これは、世界のエネルギー市場にとどまらず、世界の流動性と経済統合の構造にまで影響を及ぼすことになるでしょう。