FXトレーディングの焦点:英国政府によるポンド安定化の取り組み、今週の米ドル
英国では、クワーテング前財務相が打ち出した減税策のほぼ全てが撤回され、急遽発表されたエネルギー補助金も見直されることにより、英国債市場と通貨がさらに安定するとの期待から、ポンドは本日(10月17日)、急上昇しました。それは奏功するかもしれませんが、その安定は必ずしも持続的なポンド高を意味するわけではありません。英国債とポンドに対する信認を問う次の重要な機会は、本日午後のジェレミー・ハント新財務相の演説です。演説に先立ち、ハント財務相は、320億ポンドの税収減を回避し、またエネルギー補助金は来年の4月までは継続するがそれ以降は見直すとの方針を示しました。
それ以外にも、先週木曜日(10月13日)の米消費者物価指数の発表をきっかけに、投機筋の動きや、プロテクションのためのデリバティブを用いたヘッジによる膨大な利益確定などでセンチメントが異常に高揚して以来、大荒れの数日間となっています。金曜日に突然、センチメントの崩壊が回復したのは特定の事象に起因するものではなく、今週から決算シーズンが本格化し、また米FRBからの引き締めのメッセージが続く中で、市場がまだ非常に不安定な状態であることを示唆しています。金曜日の終値が悲惨なものであったにも関わらず、本日のセンチメントが改善したのは、金曜日にイングランド銀行が緊急のQEオペを終了させた後、ポンドが安定し、英国債がそれによって支えられたためと思われます。
今週は米国の経済指標の発表が少ないですが、米国の住宅関連のデータが、今後数か月の間に形成されるリセッションに向けて急速に悪化していることを示唆する可能性が高いとみられます。10月の全米住宅建設業協会(NAHB)調査は明日(10月18日)、9月の住宅着工件数/建築許可件数は水曜日(10月19日)に発表されます。この住宅サイクル指標のひとつである住宅価格は、金融危機の前よりも急速に下落しており、ケース・シラー住宅価格指数(20都市)によると、7月は今回のサイクルで初めて住宅価格が全面的に下落しました(-0.44%)。今年初めの住宅価格上昇のピーク(2月、3月は月2%を大きく超えていました)からわずか数か月での下落です。この驚くべき反転はもちろん住宅ローン金利の急上昇によるもので、米国の標準的な30年固定型住宅ローンは、今年初めの約3.25%から現在では7.2%という途方もない水準まで上昇しています。前回の住宅ローン危機では、30年物住宅ローンの金利は2003年の5.0%付近を底に6.5%以上に上昇することなく危機に突入し、リスクの高いローンの破綻が危機の要因でしたが、それとは大幅に異なる状況です。
チャート:ユーロ/英ポンド
週が明けて、英国政府が教訓を学び、国債市場危機を回避すべく、トラス新政権の歳出・減税計画をほぼ撤回し、利回りが急速に低下している市場と、先週のクワーテング前財務相の辞任により既にユーロに対してポンドが安定している状況に、市場は一息ついているようです。本日のジェレミー・ハント新財務相の演説(14:30GMT)後のセンチメントにより、ポンドがどのような方向に向かうのかが注目されます。ユーロ/英ポンドが以前のレンジを完全に回復するとすれば、0.08625-0.8575にまだ若干、支持線が残っています。エネルギー価格の低下に伴う英国と欧州のセンチメントと成長見通しがより大きく反転しない限り、ポンドが大きく上昇するとは考えにくく、ベストケースシナリオでも、ポンドがクロスや対ユーロで安定するにとどまると予想されます。