欧州株式:復活を遂げる不死鳥となるか? 欧州株式:復活を遂げる不死鳥となるか? 欧州株式:復活を遂げる不死鳥となるか?

欧州株式:復活を遂げる不死鳥となるか?

株式 10 minutes to read
PG
ピーター・ガンリュー

株式戦略責任者(Saxo Group)

サマリー:  欧州の株式市場がこれほどまでに投資家の注目を集めたのは、世界を席巻したデジタル化の波によって米国株式が黄金期を迎え、世界の株式市場を圧倒し始めた2007年以来のことです。物質世界の復活は、その市場の特性と相まって欧州株にとって有利に働くものと考えられます。本稿では、欧州株式市場の構成上の特性や、米国の市場との相違を詳細に述べた上で、物質的な世界が復活を遂げつつある今、なぜ投資家の注目を集めているのか、その理由を探っていきます。


エグゼクティブ・サマリー

欧州株は、長らく米国株をアウトパフォームしていましたが、過去13年間に及ぶ米テック主導の強気相場によって、欧州株が投資家にとって魅力的な市場だった時代は記憶から薄れるゆくこととなりました。ところが昨年10月以来、欧州株式は再び米国株式を大きくアウトパフォームし、これまでになく投資家から注目を集めています。本稿では、以下3つのポイントを踏まえた上で、欧州株式市場の概況をお伝えしたいと思います。

  1. 欧州はデジタル競争で米国に敗れた結果、欧州株式はその後13年という長い期間にわたって米国株式を大きくアンダーパフォームしてきた。しかし、2022年10月以降、市場を取り巻く状況は好転し、欧州株は再びカムバックを果たす兆しを見せている。
  2. ユーロ圏には20のスーパーセクターが存在しており、欧州株式の業種構成は、米国株式に対して分散化という側面で優位性を確保している。
  3. 欧州株は米国株に対して相対的に割安な水準にあり、米国企業のマージンが圧迫される傾向にある一方で欧州企業の営業利益マージンはここ最近改善傾向が続いている。

デジタル革命に乗り遅れた欧州

かつて欧州の株式市場は、大西洋を隔てた米国の株式市場を凌駕し、1969年12月から1990年10月までの長きにわたり、米国株式を年率2.7%(米ドル換算ベース)上回るという好調なパフォーマンスを維持していました。しかし、半導体やCPU、OSオペレーティングシステムの初期バージョンの開発などデジタル化の進展とともに、こうした時代は終わりを遂げ、1990年代に入るとインターネットが一般的に普及し、1994年に設立されたAmazonをはじめ、ソフトウェア以外のデジタルビジネスに特化した企業が相次いで誕生しました。

1990年代に入ると、米国は欧州を上回るペースで経済成長を遂げ、シリコンバレーのインターネットブームが加速する中で、米国株式市場は1960年代の「ニフティ・フィフティ」相場以来のスーパーバブルに突入しました。米国株式は1990年10月から1999年6月まで、欧州株式をじつに年率6.4%のペースでアウトパフォームし、過去数十年以来の勢いで世界の市場を圧倒する地位を築き上げました。しかしその後、信用ブームやユーロ導入後の大量の資金流入、中国主導のコモディティ・スーパーサイクル、アジア4小竜の台頭による域内初の輸出ブームなどを背景に、欧州株式は再び米国株式をアウトパフォームし、米国株が1969年12月以来最大のアンダーパフォームを記録した2007年11月まで、その勢いを維持しました。

Microsoft、Apple、Amazon、Nvidia、Alphabet(Googleの親会社)、Meta(Facebookの親会社)、Salesforce、Adobeなどの大手テック企業がデジタル時代を迎えた世界を制覇し、デジタル化が一段と加速する中で2007年11月から2022年10月まで米国株は上昇の一途を辿ることになります。この間、米国株式は欧州株をじつに年率7.5%という驚異的なペースでアウトパフォームし、ドットコムバブルのピークを凌ぐ勢いで上昇し続けました。欧州は米国とのテクノロジー競争において、その数年前にすでに敗北していましたが、その事実は2007年以降に一層明らかになり、欧州の株式市場から資金を引き揚げる投資家が後を絶ちませんでした。欧州は言わば衰退を遂げる「老大国」となり、投資家はシリコンバレーでリターンを獲得することを選択したのです。

ところが2022年10月以降、欧州株式のリターンは米国株式を16.7%(米ドルベース)上回っており、年初来では3.9%アウトパフォームしています。欧州株が力強い復活を遂げる中、多くの投資家が欧州の株式市場に注目しており、その特性をより深く理解したいと考えているようです。第1四半期の見通しで述べたように、もし物質的な世界が復活し、繁栄を遂げるという当グループの見解が正しければ、欧州株式は今後も他国の市場をアウトパフォームし続ける可能性を秘めています。

欧州株式市場とSTOXX 600の特性

欧州株式市場は世界で2番目の市場規模を誇り、STOXX 600は欧州で流動性が高い上位600銘柄で構成される主要なベンチマーク指数となっています。2023年1月31日のSTOXX 600インデックスの時価総額は12.7兆ユーロで、S&P 500指数の32.8兆ユーロに比べて約3倍の規模に達します。STOXX 600 Indexの国別構成比率の上位4カ国はイギリス、フランス、スイス、ドイツで、ヘルスケアセクターは業種別構成比で首位を占めています。これは、構成銘柄の上位10社を見ても明らかであり、大手製薬企業4社(ノボノルディスク、ロシュ、アストラゼネカ、ノバルティス)が含まれています。また、個別銘柄で最も高いウェイトを占めるのは、Nestle、ASML、LMVHの3社となっています。
 
Source: stoxx.com
Source: stoxx.com

欧州株式指数のスーパーセクター

STOXX 600 Indexは、下図に記載した業種分類ベンチマーク(ICB)に基づいて定義された20のスーパーセクターから構成されています。STOXX 600 Indexは浮動株考慮後時価総額に比例した加重を行っており、浮動株時価総額を採用しています。その額は合計で9.7兆ユーロに上りますが、これは以前開示された額を下回っていますが、その理由は浮動株考慮後時価総額は市場に流通している発行済株式のみを算定の対象としており、特定の株主が保有する固定株を除外しているためです。スーパーセクターを企業数に基づいて比較した場合、最も規模の大きいセクターは103社で構成される「工業製品・サービス」で、時価総額上位3社はSiemens、Schneider Electric、およびAirbusです。

一方、スーパーセクターの自己資本利益率(ROE)を比較すると、ROEが43.9%に達するメディアが最も収益性の高いセクターとなります。同セクターの時価総額上位3社はRELX、Wolters Kluwer、Publicis Groupeです。また、過去1年間の収益成長率で比較した場合は、EPSが225%増加したエネルギーセクターが首位の座を獲得しており、時価総額上位3社のShell、BP、TotalEnergiesが圧倒的な規模を誇ります。

12ヵ月先予想PERに基づいて比較した場合、最も割高なスーパーセクターは「消費財・サービス」であり、当セクターの上位3社はLVMH、L’Oreal(ロレアル)、Richemontです。「消費財・サービス」の一部を構成する高級ブランド銘柄は中国経済再開の恩恵を見越した投資家の需要を集めており、昨年10月以来の欧州株式市場の力強いパフォーマンスに大きく寄与してきました。詳細については、世界の高級ブランド産業で圧倒的な地位を誇る欧州企業について取り上げた2月17日付の株式レポートをご参照ください。

12ヵ月先予想PER に基づくと、「自動車・自動車部品」セクターが最も割安な水準にあり、時価総額上位3社はMercedes-Benz、Stellantis、BMWとなります。

セクター構成が分散化された割安な市場

欧州株式市場のもう一つの興味深い特徴は、STOXX 600とS&P 500の世界産業分類基準(GICS)に基づくセクターウエイトが非常に大きく異なる点です。ウェイトが最も大き異なるのは「情報技術」セクターで、19%ポイントもの開きがあります。また、米国株は、Meta Platformsをはじめとするメディア関連銘柄の含まれる通信サービスのウェイトが高い傾向にあります。一方、欧州株式市場は、金融、工業、生活必需品、素材(鉱業・化学)など、に有形資産を取り扱うセクターが高いウェイトを占めています。私たちがこれまで指摘してきた国内回帰の加速や地政学的情勢と新たな価値システムによる世界の二極化、グリーン・トランスフォーメーション、銅をはじめとする主要金属の供給不足、大規模なインフラ投資の必要性などが正しければ、欧州株式は理論的には米国株式をアウトパフォームする公算が大きいと考えられます。また、欧州の株式市場は、米国に比べてより幅広いセクター構成による分散化が図られており、ハーフィンダール・ハーシュマン指数を用いて各企業の市場シェアの2乗を加算して比較すると、米国の株式市場のセクター構成は、欧州に比べて市場占有率が19%も高いと判断できます。このため、米国株式をオーバーウエイトする場合、実質的に今後もテック企業が他のセクターをアウトパフォームし続けるという、大きな賭けに出ることを意味します。

2023年の欧州株式にとってもう一つのポジティブな要因は、STOXX60012ヶ月先予想PERS&P50017.8倍に対して13.2倍と、魅力的なバリュエーション水準にある点です。つまり、米国株は欧州株よりも35%割高な水準で取引されており、いまだに2008年以来の高水準で推移していることになります。今後こうしたバリュエーションの乖離が過去の平均的なレンジに収束するとすれば、欧州株にとって追い風となるものと予想されます。米国株に対する欧州株のバリュエーション・ギャップを縮小するためには、2009年から欧米企業の間で顕在化してきた営業利益率の格差解消が鍵となりますが、欧州で有形資産主導の産業が復活を遂げる中、過去1年間でそのギャップは急速に収れんしつつあります。

口座開設は無料。オンラインで簡単にお申し込みいただけます。 

最短3分で入力完了!

【ご留意事項】

■当資料は、サクソバンクグループのアナリストによるマーケット分析レポートの転載、もしくは外部のアナリストからの寄稿となっております。
■当資料は、いずれも情報提供のみを目的としたものであり、特定の取引の勧誘を目的としたものではありません。
■当資料は、作成時点において執筆者またはサクソバンク証券(以下「当社」)が信頼できると判断した情報やデータ等に基づいていますが、執筆者または当社はその正確性、完全性等を保証するものではありません。当資料の利用により生じた損害についても、執筆者または当社は責任を負いません。 
■当資料で示される意見は執筆者によるものであり、当社の考えを反映するものではありません。また、これら意見はあくまでも参考として申し述べたものであり、推奨を意味せず、また、いずれの記述も将来の傾向、数値、投資成果等を示唆もしくは保証するものではありません。 
■当資料に記載の情報は作成時点のものであり、予告なしに変更することがあります。 
■当資料の全部か一部かを問わず、無断での転用、複製、再配信、ウェブサイトへの投稿や掲載等を行うことはできません。
■上記のほか、当資料の閲覧・ご利用に関する「免責事項」をご確認ください。 
■当社が提供するデリバティブ取引は、為替相場、有価証券の価格や指数、貴金属その他の商品相場または金利等の変動によって損失を生じるおそれがあります。また、お預けいただく証拠金額に比べてお取引可能な金額が大きいため、その損失は、預託された証拠金の額を上回る恐れがあります。
■当社が提供する外国証券取引は、買付け時に比べて売付け時に、価格が下がっている場合や円高になっている場合に損失が発生します。手数料については、「取引金額×一定料率」又は「取引数量×一定金額」で求めた手数料が一回の取引ごとに課金されます。ただし手数料の合計額が当社の定める最低手数料に満たない場合は、手数料に代えて最低手数料を徴収させていただきます。また取引所手数料等の追加費用がかかる場合があります。 
■取引にあたっては、取引説明書および取引約款を熟読し十分に仕組みやリスクをご理解いただき、発注前に取引画面で手数料等を確認のうえ、ご自身の判断にてお取引をお願いいたします。 
■当社でのお取引にかかるリスクやコスト等については、 こちらも必ずご確認ください。

サクソバンク証券株式会社
Saxo Bank Securities Ltd.
Izumi Garden Tower 36F
1-6-1 Roppongi Minato-ku
Tokyo 106-6036
〒106-6036 東京都港区六本木1-6-1
泉ガーデンタワー36F

お問い合わせ

国・地域を選択

日本
日本

【重要事項及びリスク開示】

■外国為替証拠金取引は各通貨の価格を、貴金属証拠金取引は各貴金属の価格を指標とし、それらの変動に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、売買の状況によってはスワップポイントの支払いが発生したり、通貨の金利や貴金属のリースレート等の変動によりスワップポイントが受取りから支払いに転じたりすることがあります。
■外国為替オプション取引は外国為替証拠金取引の通貨を、貴金属オプション取引は貴金属証拠金取引の貴金属を原資産とし、原資産の値動きやその変動率に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、オプションの価値は時間の経過により減少します。また、オプションの売り側は権利行使に応える義務があります。
■株価指数CFD取引は株価指数や株価指数を対象としたETFを、個別株CFD取引は個別株や個別株関連のETFを、債券CFD取引は債券や債券を対象としたETFを、その他証券CFD取引はその他の外国上場株式関連ETF等を、商品CFD取引は商品先物取引をそれぞれ原資産とし、それらの価格の変動に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、建玉や売買の状況によってはオーバーナイト金利、キャリングコスト、借入金利、配当等調整金の支払いが発生したり、通貨の金利の変動によりオーバーナイト金利が受取りから支払いに転じたりすることがあります。
■上記全ての取引においては、当社が提示する売価格と買価格にスプレッド(価格差)があり、お客様から見た買価格のほうが売価格よりも高くなります。
■先物取引は各原資産の価格を指標とし、それらの変動に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。
■外国株式・指数オプション取引は、対象とする有価証券の市場価格や対象となる指数、あるいは当該外国上場株式の裏付けとなっている資産の価格や評価額の変動、指数の数値等に対する予測を誤った場合等に損失が発生します。また、対象とする有価証券の発行者の信用状況の変化等により、損失が発生することがあります。なお、オプションを行使できる期間には制限がありますので留意が必要です。さらに、外国株式・指数オプションは、市場価格が現実の市場価格等に応じて変動するため、その変動率は現実の市場価格等に比べて大きくなる傾向があり、意図したとおりに取引ができず、場合によっては大きな損失が発生する可能性があります。また取引対象となる外国上場株式が上場廃止となる場合には、当該外国株式オプションも上場廃止され、また、外国株式オプションの取引状況を勘案して当該外国株式オプションが上場廃止とされる場合があり、その際、取引最終日及び権利行使日が繰り上げられることや権利行使の機会が失われることがあります。対象外国上場株式が売買停止となった場合や対象外国上場株式の発行者が、人的分割を行う場合等には、当該外国株式オプションも取引停止となることがあります。また買方特有のリスクとして、外国株式・指数オプションは期限商品であり、買方がアウトオブザマネーの状態で、取引最終日までに転売を行わず、また権利行使日に権利行使を行わない場合には、権利は消滅します。この場合、買方は投資資金の全額を失うことになります。また売方特有のリスクとして、売方は証拠金を上回る取引を行うこととなり、市場価格が予想とは反対の方向に変化したときの損失が限定されていません。売方は、外国株式・指数オプション取引が成立したときは、証拠金を差し入れ又は預託しなければなりません。その後、相場の変動や代用外国上場株式の値下がりにより不足額が発生した場合には、証拠金の追加差入れ又は追加預託が必要となります。また売方は、権利行使の割当てを受けたときには、必ずこれに応じなければなりません。すなわち、売方は、権利行使の割当てを受けた際には、コールオプションの場合には売付外国上場株式が、プットオプションの場合は買付代金が必要となりますから、特に注意が必要です。さらに売方は、所定の時限までに証拠金を差し入れ又は預託しない場合や、約諾書の定めによりその他の期限の利益の喪失の事由に該当した場合には、損失を被った状態で建玉の一部又は全部を決済される場合もあります。さらにこの場合、その決済で生じた損失についても責任を負うことになります。外国株式・指数オプション取引(売建て)を行うにあたっては、所定の証拠金を担保として差し入れ又は預託していただきます。証拠金率は各銘柄のリスクによって異なりますので、発注前の取引画面でご確認ください。
■上記全ての取引(ただしオプション取引の買いを除く)は、取引証拠金を事前に当社に預託する必要があります。取引証拠金の最低必要額は取引可能な額に比べて小さいため、損失が取引証拠金の額を上回る可能性があります。この最低必要額は、取引金額に対する一定の比率で設定されおり、口座の区分(個人または法人)や個別の銘柄によって異なりますが、平常時は銘柄の流動性や価格変動性あるいは法令等若しくは当社が加入する自主規制団体の規則等に基づいて当社が決定し、必要に応じて変更します。ただし法人が行う外国為替証拠金取引については、金融商品取引業等に関する内閣府令第117条第27項第1号に規定される定量的計算モデルを用いて通貨ペアごとに算出(1週間に1度)した比率を下回らないように当社が設定します。
■上記全ての取引(ただしオプション取引の買いを除く)は、損失が無制限に拡大することを防止するために自動ロスカット(自動ストップロス)が適用されますが、これによって確定した損失についてもお客様の負担となります。また自動ロスカットは決済価格を保証するものではなく、損失がお預かりしている取引証拠金の額を超える可能性があります。
■外国証券売買取引は、買付け時に比べて売付け時に、価格が下がっている場合や円高になっている場合に損失が発生します。
■取引にあたっては、契約締結前交付書面(取引説明書)および取引約款を熟読し十分に仕組みやリスクをご理解いただき、発注前に取引画面で手数料等を確認のうえ、ご自身の判断にてお取引をお願いいたします。

サクソバンク証券株式会社

金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第239号、商品先物取引業者
加入協会/日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、日本投資者保護基金、日本商品先物取引協会
手数料:各商品の取引手数料についてはサクソバンク証券ウェブサイトの「取引手数料」ページや、契約締結前交付書面(取引説明書)、取引約款等をご確認ください。