金利上昇が企業の投資活動に与える影響とは

金利上昇が企業の投資活動に与える影響とは

株式
Peter Garnry

Chief Investment Strategist

サマリー:  一般に、金利の上昇は景気の冷え込みにつながり、企業の投資活動にネガティブな影響を及ぼすと考えられていますが、2003年から足元までのS&P 500指数の推移を見ると、実際は逆の影響をもたらす可能性があります。例えば、一定の期間における米10年国債利回りの高低を4分位に分けて分析すると、S&P500構成銘柄の研究開発費や設備投資の伸びは、金利が最も高い第4分位の水準を付けた後の1年間にピークに達する傾向が見て取れます。リセッションを巡り様々な議論が展開される中で、S&P500構成銘柄全体の投資額の伸びが過去11年間で最も高い水準に達していることは大変興味深いことです。


S&P 500構成銘柄の投資額は急速に拡大を遂げる

企業会計の一般原則では、バランスシートに巨額の無形資産投資を資産計上することが認められていないため、企業の投資活動についてアナリストが見解を述べる場合、その多くは設備投資額に基づいています。しかし、ブランド(マーケティング費用)や製品(研究開発費)に対する投資は一般的に損益計算書に費用計上されるため、投資額に含まれていません。マーケティング費用が財務諸表に注記されているケースは少ない一方、研究開発費は注記されているため、S&P 500構成銘柄全体の投資額を把握する場合は、設備投資費と研究開発費を合わせた金額を代用することができます。

S&P 500構成銘柄の投資額の合計は、足元で1株当たり174ドルと前年比で19.2%増加しています。また、売上高と時価総額に占める割合は、それぞれ10%、4.4%程度と世界経済が金融危機から急速に回復に向かいつつあった2011年後半以来の高水準に達しています。各社の投資活動がこれほどの伸びを示したのは、クレジット市場の世界的な拡大が企業の景況感や設備投資を押し上げた2005年~2006年にさかのぼります。多くのCEOが先行き不透明感の高まりや金利の上昇、非グローバル化について懸念を示す一方、将来に向けた規模な投資に確信を持っているようです。こうした傾向は、経済がソフトランディングどころか加速し、景気過熱が再びインフレ圧力を高めるとの見方を裏付けています。

金利上昇は成長の足かせとなるか?

これまで、私たちはインフレを引き起こす主な要因を明確に理解することが、いかに困難であるかを実感してきました。そして、いまだに理解できずにいるのかもしれません。もし私たちがインフレのダイナミクスを正しく理解できていれば、現在のような状況に陥ることはなかったのかもしれませんが、これはあくまでも推測にすぎません。先日、あるエコノミストが金利上昇下では、変動金利ローンが常に高い金利でリファイナンスされるため、企業のコスト負担を増加させ、投資活動が鈍化する可能性があると指摘しました。資本コストの上昇が企業の投資活動にネガティブな影響を与えるという考えは、理にかなっていると言えます。しかし、仮にその因果関係が逆だとすれば、金利上昇はどのような結果をもたらすでしょうか?例えば金利が低下している時は、企業の投資意欲を掻き立てるような投資先が不足していることを示しているのかもしれません。

10年国債利回りの高低を4分位に分けて、S&P 500構成銘柄のその後12カ月間の投資額の伸びを比較すると、企業の投資活動の傾向を把握できます。第4分位の利回りのレンジは3.84%を起点とし、企業のインフレの影響を除いた実質設備投資(研究開発費を含む)の年平均成長率は、9.2%に達します。第2分位と第3分位の年平均成長率が、それぞれ2.6%2.8%であることを踏まえると、これは伸び率はかなり拡大しています。第1分位の利回りは1.99%を分岐点としており、低金利下におけるその後1年間の投資額の年平均成長率は5.9%となります。これらのデータは決定的なものではなく、より長期的かつ国別のデータに基づいて正確な分析を行う必要がありますが、2003年以降でS&P 500構成銘柄の実質設備投資の成長率が最も拡大した時期が、米国債の利回りがピークに達した時期と重なっていることは、大変興味深いことです。こうした傾向は、少なくとも金利上昇下において企業の投資活動が減少するという見方の裏付けとはならないようです。

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