サマリー: 当社は、長期的に持続する一次産品価格の上昇サイクルがまだ終わっていないという当社が長らく抱いている見解の根拠(および、世界の成長の観点からは不幸なリスク)を維持します。しかし、数十年間で最高水準のインフレ率と、中央銀行が積極的な利上げでブレーキを踏んでいる状況に直面して、最近の何四半期かに確認された全体的な上昇は、その強さが供給不足の商品によるものであるため、より不均一になっています。
ブルームバーグ商品スポット指数は、第2四半期に過去最高を記録した後、世界的な成長懸念への関心が高まったことから、調整局面に入りました。次の主な展開が、今年後半の基調を決定する役割を果たすと思われます。1)戦争を終結させ、それによってコモディティのサプライチェーンの正常化への長い道のりを始めようとするロシアの意欲、2)世界最大のコモディティ消費経済である中国の経済成長の減速と、その経済を刺激する同国の能力との間の力関係、3)米国の利上げの強さ、速度と、インフレ、成長に対するその影響、そして、4)価格、特に、エネルギー部門全体が、需要破壊と、より均衡に近い市場が確認される水準まで達したかどうかです。
しかし、高価格を通じた需要破壊と、急速な金利上昇を通じた成長の鈍化が一時的に上昇の停止を促す可能性がある一方で、供給における長期的課題は残ります。供給は、1)コモディティ投資のリターンの歴史的な不振、2)将来の収益の予測を困難にする高水準のボラティリティ、そして、3)鉱業とエネルギー生産部門に属するオールドエコノミー企業が投資家を引き付け、現地当局から必要な承認を得ることをますます妨げてきた環境・社会・ガバナンス(ESG)立法などの、容易には解決することができない要因によって決定されています。
前四半期中に、エネルギーセクターと工業用金属セクターは逆方向に進みました。燃料製品価格の高騰に牽引されたエネルギーセクターは、力強い上昇を示しました。その推進力は、上記の幾つかの理由、最も差し迫った理由としては、世界的な需要の新型コロナウイルス前への回復に対応するために生産者が生産を高めることができないことと、より最近ではロシアに対する制裁です。目盛りの反対側の端では、工業用金属セクターが、世界的な成長懸念と、中国でのロックダウンの長期化によって世界最大のコモディティ消費者である同国の活動が減少したことによって、苦戦を強いられました。
農業:世界的な食糧危機のリスクと懸念は解消していません。北半球の栽培期が進むのにつれて、生産に関する懸念の一部は薄れてきましたが、完全に消えたわけではありません。食品コモディティの価格上昇は、当初は、戦禍で荒廃したウクライナからの供給に大きく依存している2つの食品カテゴリーである小麦と食用油が中心でした。次の収穫のわずか数週間前になっても依然としてサイロに閉じ込められている何百万トンもの穀物が貯蔵スペースを必要とするため、食品価格の見通しは、世界全体の作物に優しい天候のレベルと、ウクライナの作物の輸出を可能にする回廊が確立されるかどうかに左右されるでしょう。
貴金属および半貴金属:第2四半期には、ドルが上昇し、米国債利回りが歴史的なペースで急上昇した一方で、世界の成長鈍化の顕在化によって工業用需要の見通しに疑問が投げかけられたことから、金、銀、プラチナはすべて苦戦しました。これは、最も大幅な後退に見舞われた銀に打撃を与えました。金のトレーダーは、最近何四半期かは、金の重要なマイナス要因として10年物の実質利回り上昇に注目しています。しかし、今年の現在までのところは、その逆相関はますます疑問視されています。年初から1.8%の実質利回りの跳ね上がりは、金の取引価格が300ドル以上高過ぎであることを示すと考えられます。ところが、金は年初からほぼ横ばいに近い価格で取引されており、ドルが幾つかの主要通貨に対して何年もの間の最高値で取引されていることを考慮すると、さらに印象的なパフォーマンスといえます。
当社は、スタグフレーションのリスクの高まり(中央銀行がインフレを抑制する前に経済成長を途絶えさせてしまう状況)に対する金のヘッジ、トレーダーが40年間で最も高い水準のインフレ率に反応していること、そして、株式と暗号通貨の混乱が相まって、実質利回りの上昇によって決定されるペースで金が下落していない理由の一部になっていると考えます。それを念頭に置いて、当社は、投資家が何を述べているかではなく、何を行っているかを、上場投資信託(ETF)のフローを通じて観察しています。
当社は、より高い金利環境への移行が企業と個人に打撃を与えることに伴う世界の金融市場の混乱の継続のリスクを考慮して、金に関する強気の見通しを維持します。金(および銀)が第2四半期の調整期間の後に年後半中は上昇し、最終的には金が新たな最高値に達するという第2四半期の当社の予測を据え置きます。
工業用金属:同セクターは、主に、世界最大のコモディティ消費経済である中国の成長見通しにマイナスの影響を与えてきた同国のますます緊迫しているゼロコロナ政策によって、第2四半期に大幅な調整に直面しました。加えて、インフレと戦うための金利引き上げの必要性を考慮すると、世界の成長見通しは依然として不透明です。
状況の変化は、幾つかの金属に関しては同様に困難だと思われる供給見通しから離れて、困難な需要へとますます投資家の関心を向けさせています。
炭素消費量の少ない未来に向けたエネルギー転換により、多くの主要金属の需要は堅調に推移すると予想されます。一方で、現状中国の見通しには不確定な要素が多く、特に銅は中国需要の大部分が不動産部門に関連しているため、その傾向が強いといえるでしょう。しかし、2024年より後の新規鉱山の供給パイプラインが相対的に脆弱であることを考慮すれば、中国の不動産業の減速によるマクロ的な逆風は2022年全体を通じて緩和されていくと考えられます。米国FRBとは対照的に、中国人民銀行(PBOC)と政府が、工業用金属を必要とするグリーントランスフォーメーションの取り組みに特に焦点を合わせて経済を刺激する可能性が高いことも考慮する必要があります。
1年超にわたってボックス圏となっていた銅は、中国でのロックダウンの長期化と投資家の景気後退懸念の高まりに反応して6月に下方にブレイクしました。このことを念頭に置いて、当社は、第3四半期に向かって中立的です。つまり、同セクターへの既存のエクスポージャーは維持すべきである一方、価格変動が、可能性としては4.05ドル超えまで戻るブレイクあるいはさらに下落した場合においては約3.5ドルで新たな上値余地のシグナルを示すまでは追加しないようにするべきだと考えています。
エネルギー:ロシアに対する制裁、ロシアのエネルギーから自らを切り離そうとする欧州の試みと、石油輸出国機構(OPEC)の多くの産油国が生産能力に近いペースで生産していることの組合せは、エネルギーセクターを下支えする主な展開となっています。川上と川下両方の設備投資における長年の過少投資の影響を加えると、ロシアのフローを削減する制裁と新型コロナウイルス後の需要回復という二重の課題に対処するための世界的な製油所の余力はほとんどありません。
景気減速のリスクにもかかわらず、弾力性のない供給と旺盛な需要は、国際エネルギー機関(IEA)が2023年に入ってからの供給不足の拡大を警告することにつながりました。新型コロナウイルスのパンデミック中の閉鎖によってさらに悪化した製油所の能力の不足によって2008年の記録である1バレル145ドルを大幅に下回っている原油から、ガソリンとディーゼルが既に記録的な水準に達している精製燃料市場へと危機が移りました。
潤沢な現金をもつ石油メジャー(国際石油資本)と投資家全体が、新規発見への投資意欲をほとんど示していないことは、エネルギーコストが今後何年も高止まりする可能性が高いことを示す長期的な根拠です。前述した高いボラティリティと歴史的な投資収益率の不振という課題に加えて、将来の需要予測に関係する当面の課題が存在します。
差し迫った注目をますます集めているグリーントランスフォーメーションは、最終的には化石燃料に対する世界の需要を低下させ始めると考えられます。この移行のタイミングが、投資意欲を低く抑えています。油井が数か月以内に生産可能となるフラッキングのような新たな掘削方法とは異なって、伝統的な石油生産プロジェクトでは、多くの場合に、生産開始までに何年もかかり、何十億ドルもの投資を必要とします。言い換えれば、石油生産者は、1バレル110ドルを超える非常に魅力的な現物原油価格よりもむしろ、将来の市場が原油にどれだけの価格を付けるかに注目します。
次のチャートは、ブレント原油およびウエストテキサスインターミディエート(WTI)原油のフォワードカーブと、両方の原油銘柄が現在の現物価格よりも40ドル超低く取引される5年後に生産者が直面するジレンマを示しています。
これらの価格は、需要が低下していく市場を予測しており、それによって、新規プロジェクトの長期的な収益性についての不確実性がさらに大きくなっています。