メイ政権の大敗を受け、ポンドが上昇

ジョン・ハーディ
FXストラテジー責任者

概要:メイ英首相が提出したEU離脱案の大敗を受け、英ポンドが上昇。ポンド相場以外では、USDCNYやリスクに対するセンチメントが外国為替市場を動かす材料となっています。

 

テリーザ・メイ英首相が提出した不人気なEU離脱案が大方の予想を超えた大失敗に終わった今、誰もが次なるステップを理解することに躍起になっています。次に何が起きるのか、喧々諤々の議論にあれこれと口を挟むことは差し控えますが、労働党がけしかけた16日の内閣不信任投票に首相が足元をすくわれることはなく、したがって解散総選挙に向かう流れが出来つつあるわけではない、という市場予想と同じ見方をしています。

同様に、国民全体のセンチメントとして、国民投票の再実施を支持する声は極めて小さいとみられます。メイ政権が不信任決議案を乗り切ると仮定すると、これから注目すべきは離脱案の大敗が与える多少の影響を勘案しながら、メイ首相が欧州連合(EU)の交渉相手と離脱案の再検討に入る結果、どうなるのかということでしょう。

EUの指導者らはこの厄介な事態から頑なに目をそむけ、自分たちの立場を変えるという兆しはほとんど、あるいは一切見せないとみています。また、もう一つの考えとして、メイ首相が次の一手を探るため反対派に対し“党派の枠を超えた”協議を求めることも考えられます。ブレグジットを巡るセンチメントは各党の方針を超えていることを考えれば、これは極めて理にかなっていると言えるでしょう。とはいえ、一致団結した離脱案が生まれるには、英国政界の空気はあまりに悪く、機能不全に陥っているのではないか、という疑問も湧いてきます。

最後に、リスボン条約50条が定める離脱交渉期間の延長が認められる、という独りよがりの前提に関する問題もあります。この市場予想が強く支持されていることに関して個人的には一抹の不安がありますが、一方で交渉が大詰めを迎える中、結局は「合意なし」の離脱となりつつも、離脱協定案の実施期間を長く設定するなど、いくつもの条件を付けてその影響を和らげることになる、という議論もあります。

ブレグジット問題以外では、今週初めからリスク選好が2つの理由から下支えられています。1つは中国が発表した減税策、もう1つはEU離脱案の否決に対する反応です。ブレグジット問題が外国為替市場に与えた影響は比較的軽微で、新興国通貨および豪ドル、NZドルはリスク選好の回復が好材料となりました。リスク選好の高まりは株式市場にとどまりません。米連邦準備制度理事会(FRB)がハト派寄りのスタンスに転じて以来、ジャンク債も買いが加速しており、ハイイールド債のスプレッドにもリスク選好の高まりが見られます。G3通貨に関しては、USDCNYが一時的に値を下げた後、相場が迷走したこと、また15日夜のEU離脱案否決を受けEURGBPが下落したことで、EURUSDの上値を追う動きが抑えられました。この点については後で詳述します。

今、相場をかじ取りしているのはアニマルスピリット(野心的意欲)と中国の政策意図と言えます。主要通貨のテクニカルな状況は基本的に不確実かつ乱雑な状態で、市場参加者は確信を持てぬまま、より明確なシグナルが出るのを待っています。また、中国共産党の全体会議や政策方針を定めるその他の重要な会合に関してうわさが飛び交う中、向こう1、2週間は中国がさらに政策を打ち出すことが特に大きなリスク要因となるでしょう。しかしながら、今の時期から3月、あるいはもう少し先までの期間は旧正月の祝事で同国の経済指標が歪められ、その解釈が難しくなるのが悩ましいところです。

図:EURGBP

出典:サクソバンク

EURGBPは16日、200日移動平均線を下抜けました。前日夜にメイ首相が歴史的大敗を喫したとはいえ市場はポンドに対して強気の見方を示しており、ここ数カ月の取引レンジの中央値に近い水準となっています。英労働党による政権奪取、また合意なきEU離脱のどちらも起こり得ないという前提を元に、市場がポンドに対する防衛的なポジションを引き続き手仕舞うようであれば、下値の余地はまだ十分にあるとみられます。

G10通貨の相場概要

USD – 米ドルは急上昇するリスク通貨に対して値を下げる一方、ユーロや日本円に対してはさほど大きく動いていないことから、市場は差し当たり、米ドルに関して相場観を持つのを避けている模様です。当面はUSDCNYとリスク選好が相場を動かす主な材料となりますが、米政府機関の一部閉鎖が1週間以内に解決されなければ(またはその影響が大幅に緩和されなければ)、ドルを圧迫し始める可能性があります。

EUR – 15日午後、ドイツの5年物国債の利回りが40ベーシス低下し、現地で最低水準を更新。ドイツおよびEUの経済見通しは依然として厳しいことから、ブレグジット関連のニュースにも大きな反発は見られませんでした。その結果、EURUSDの上抜けを狙う積極性も抑えられています。

JPY – 特に新興国のリスク資産が上昇する中で、日本円も値を戻し上昇しています。円は世界のリスク選好に対する感応度が高い通貨であることから、今後も上昇基調が続くとみられます。

GBP – 16日にはメイ政権の不信任投票があり、さらにその数日後には次のステップが見えてきますが、不信任案を乗り切れば新たな選挙という見通しは消えるでしょう。むしろ、離脱交渉期間の延長という市場が当然視している前提が本当に妥当なのか、という点の方が興味深いと思われます。ブレグジットの今後の展望を見守る中で、テクニカル的にはポンドにはまだ上昇の余地があると言えます。

CHF – 最近のブレグジットの動向はEURCHFにあまり影響を与えておらず、スイスフランを強く動かす材料、あるいは取引をする理由に欠ける状況です。

AUD – AUDUSDは上昇、最初の重要なピボットゾーンである0.7200~0.7250に到達していますが、中国の減税や全体的に良好なリスク選好が好材料となっており、引き続き買い先行となっています。

CAD – USDCADはFRBがハト派寄りに方向転換したのを受け1.3600から大幅に値を下げた後、穏やかな値動きとなっています。原油と株式市場の値動きは非常に強い正相関の関係にありますが、USDCADはこれに対して負の相関関係にあるとみられます

NZD – 先ごろ、ニュージーランドの短期金利がかなり大幅に低下したにもかかわらず、AUDNZDには明確な反応がなかったことから、豪ドルおよびNZドルは相対的に堅調を維持しているとみられます。

SEK – リスク選好が回復したことでスウェーデンクローナはわずかに持ち直しましたが、同国中銀が住宅価格の下落やこれに起因するリスクについてどう言及するかに関心が寄せられています。あるいはEU経済に対するセンチメントが上向かない限り、クローナがブレイクアウトするのは難しいでしょう。

NOK – EURNOKは重要な9.75エリアを再度下抜ければ、10.00台に乗せる動きが一時的なものに過ぎなかったことがより明確になるでしょう。

マクロ・ダイジェスト:歴史的敗北に苦しむ英政府

スティーン・ヤコブセン
チーフエコノミスト & CEO

概要:メイ首相が直面した英議会での歴史的敗北を経て、ブレグジット(英国のEU離脱)に向けた現状をサクソバンクのチーフエコノミスト、スティーン・ヤコブセンが分析します。

英議会は15日夜、かねてから物議を醸しているEU離脱案を大差で否決しました。英国政府とブレグジットの今後の展開に対する不透明感が広がる中、テリーザ・メイ首相が率いる内閣に対する不信任動議の採決が本稿の執筆された16日に行われます。

英議会は15日夜、かねてから物議を醸しているEU離脱案を大差で否決しました。英国政府とブレグジットの今後の展開に対する不透明感が広がる中、テリーザ・メイ首相が率いる内閣に対する不信任動議の採決が本稿の執筆された16日に行われます。

市場の反応

  • GBPUSDはオーバーナイト取引で小幅上昇したもののほとんど変わらず、16日の取引開始直後のレートは1.2861となっています。
  • 戦術的に考えて、GBPUSDは1.2880/1.2900付近で売り、と当社は考えます。ブレグジットそのものが取りやめになる可能性を市場が深読みし過ぎていることを考慮しました(ストップロスは100pips)。
  • 最も可能性が高いシナリオとして、来週末までに総選挙の実施が要求されると当社はみています。国民投票の結果を実現できなかった保守党には「有罪」の判決が下され、英国経済を破壊する要因とみなされるでしょう。英国はドイツと合わせて、2019年中に景気後退期に入るリスクが最も高い国であると当社は引き続き考えています。

最も可能性が高いシナリオとして、来週末までに総選挙の実施が要求されると当社はみています。国民投票の結果を実現できなかった保守党には「有罪」の判決が下され、英国経済を破壊する要因とみなされるでしょう。英国はドイツと合わせて、2019年中に景気後退期に入るリスクが最も高い国であると当社は引き続き考えています。

分析

EU離脱に向けて合意を得ようとしたメイ首相の最後の試みは失敗に終わり、協定案は230票差という大差で否決されました。首相は敗北を受け入れ、また、内閣不信任投票とこれに向けた討議を16日に行うことも了承しました。

なお、メイ首相は以下の点についても約束するとしています。

2016年6月に行われた国民投票の結果を尊重する。

  • 英政府はこの行き詰まりを解決する方法について、広く耳を傾ける。
  • 英国は北アイルランドを支持し、1998年の北アイルランド包括和平合意を守る。

英フィナンシャル・タイムズ紙のヘンリー・マンス氏は保守党の下院議員のうち196名がメイ首相の提出した離脱案を支持する一方、118名は反対票を投じたと報じています。一方、労働党の下院議員で離脱案に賛成したのはわずか3名で、248名が反対しました。

スコットランド国民党(下院議員数35名)、北アイルランドの民主統一党(同10名)、自由民主党(同11名)は予想通り、全員が反対に回りました。これらの党の決断も、非常に強い影響を与えました。

内閣不信任案に関する討議に関して言えば、否決される可能性が高いでしょう。とはいえ、「離脱に向けたルート」が完全に閉ざされた今、メイ首相が総選挙の実施を求める可能性は決して低くありません。首相は議会でも、またEUでも政治的資本、つまり政治的な目標の達成に必要な支持不足に悩まされているのが現状です。

欧州連合(EU)の一部指導者はすでに強硬離脱(ハードブレグジット)に対する備えを加速させています。ただし、これが実現する可能性はまだ10%に満たないことを頭に入れておくべきでしょう。

今後起きる可能性が高いのは:

  • メイ政権が16日の不信任動議を退ける。
  • 離脱交渉期間の延長や協定案の改善といった“打開策”の提示に失敗する。
  • 来週末までに“総選挙”モードに入る一方、EUは1月末にも離脱の期日を延期するための会議に入るでしょう。期日は恐らく、今の3月末から2019年末に先延ばしされるとみられます。

結論

  • 市場は第2回の国民投票に対して楽観的過ぎであり、EUからの離脱そのものが見送られる可能性が高まっているという甘い考えを持っています。しかしながら、16日に発せられた要人発言を分析すれば、国民投票の再実施は以前よりも不確かだと感じざるを得ません。英国民もこれを望んでおらず、世論調査会社YouGOVが15日朝に実施した世論調査でも2度目の国民投票を望んだのはわずか8%にとどまりました。また英議会も「第1回国民投票に背こうとは思わない」としています。
  • 議会全体での予備的な議論を1週間弱で済ませた後、総選挙が呼び掛けられるでしょう。
  • EU理事会は協議の席では厳しい姿勢を示しつつも、離脱の期日を3月末から引き延ばすでしょう。
  • 強硬なEU離脱は起きないでしょう-ハードブレグジットは英国とEUの双方に損害を与える恐れがあります。
  • 英国が総選挙に突入する中で、GBPUSDは1.2000を目指す展開となるでしょう。